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地方空港に到着後、手配したレンタカーに乗り、まずは鈴菜の実家に行き望くんを預けた。
夕方近くになってしまったが、逆に仕事終わりで頃合いが良いと、向こうの社長自ら話を聞いてくれた。
「万事、分かった。遠いとこワザワザ有り難う。ところで今夜は、どうすんだい?」
気さくな社長に、鈴菜の郷里を伝えると
「あ~あの辺は、少し奥まっているかならな」
と合点がいった様だ。
鈴菜の祖母の葬儀は、簡単な家族葬だった。
高齢で長く介護状態だったので、久しぶりの家族の団欒に花が咲いた感じになった。
鈴菜の母に、初めて俺が挨拶した時
「あれまっ」
と少し驚いた顔をした。
「何か?」
「いや~声が亡くなった主人と似てる感じしてね」
鈴菜を見ると。素知らぬ顔をしてる。
俺も久しぶりに休みを取り、帰りの飛行機を合わせた。会社で噂になっても構わない覚悟は、もうしてある。
田中家の客間に泊めてもらい、日中知り合いがお線香をあげに来る間は、不謹慎だが一人レンタカーで旅行気分を味わった。
久しぶりに山間の美味しい空気を吸った。
俺の実家は海の近くなので、潮風がきつい。
たまに磯の香りが懐かしくなるが、最近帰省してない。
帰れば、結婚の話や見合い話で煩いからだ。
東京に帰る前の日、従兄弟達と遊び疲れた望くんは、早々と爆睡していた。ここにいた間、毎晩将棋の相手をしていた。
最近やり始め、夢中な様だが周りに指せる相手が少ないらしい。
縁側でボンヤリ月を見ていたら、鈴菜が
「有り難う、色々と」
ビールとツマミをお盆に持ってきた。
「こちらこそ、息抜きさせて貰って」
軽くグラスを合わせる。
何だか夫婦みたいだ。
居ずまいを正し、
「きっと帰ったら俺達の事、噂するヤツも出てくると思う」
「…」
「休みを合わせた事は謝らない。俺にも必要な時間だったし」
「…分かってる」
「アイツとは、どうなってるの?」
「…結婚したいって。だけど私はもう誰とも結婚は考えられない」
「付き合ってても?」
「うん」
「望くんに父親が必要でも?」
「…意地悪だね」
ビールを継ぎ足した。一口飲んで
「俺、彼氏に立候補するよ」
「…遼太と別れてないよ」
「分かってる…だから比べてみ。どっちが良い男か」
「!?…二股OKって事?」
滅多に見ない彼女の驚き顔
「そう、迷うの好きだろ?実は。
こっちも良いな。あーでも、こっちも捨てがたいってさ」
「……悩んで良いの?」
逡巡してる鈴菜。悪い女だ。
残りのビールを一気に飲み干し、鈴菜をヒタッと見据えた。
「彼氏がいる女に手を出すんだ、最初から長期戦、泥沼覚悟だよ」
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