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お土産のケーキを嬉しそうに持っていく望くんと鈴菜さんが玄関から去り、俺が
「お茶にしましょう」
と誘うと
「…アンタの家か」
とスレ違いざま、低い声で囁かれた。
何処でどういう判断で、俺を嫌うのか知らないが、ムカついた。
表面上にこやかに振る舞いながら、鈴菜さんと女の会話を盗み聞く。
「相変わらず、コザッパリしてるわね。子育て中とは思えない。私の部屋の方が汚いわ~」
「お片付け、簡単だよ。ね、ママ」
「望くん、お姉ちゃんち来ない?」
ガシッと望くんを抱き締めてる、
「沙弥は飛び回っているから」
ケーキの準備をしながら、ふふっと笑う鈴菜さん
「うん、もう落ち着こうと思って、移動願い出した。海外勤務」
「えっ!本当?」
ガチャンと派手な音がした。近寄るとケーキ皿にサーバーを落としたみたいだ。
休日の午後訪問する親しい友人。
俺と同居してから、鈴菜さんの生活には無かった。
一度母親が来たが、あれは望くんの入学祝でイレギュラーな事だ。
話っぷりから、前にも訪れてた様だ。
「だから、多分ここに来るのも最後」
「…沙弥担当のお客さん、一杯いるじゃない?会社が認めるかな?」
俺は台所で飲み物の準備をする。
「ま、今オンラインでサポートも出来るし。だけど恋人とのスキンシップ、こればかりはね~」
「沙弥さんは珈琲、紅茶?」
「ハーブティーって言ったらある?」
「……」
「遼太、ゴメン。買って来てくれる?」
鈴菜さんは申し訳なさそうに、手を合わせる
「…O.K.」
俺にニッコリ笑顔を向ける、嫌な女だ。
近くのスーパーから急いで戻ってくると、鈴菜さんは台所で深刻な顔をしてた。
望くんと女は、卓上にオセロを出して遊んでいる。
俺をわざと外し、シリアスなガールズトークをした様子。
「大丈夫?」
鈴菜さんの肩に手を置くと
「えっ、ああ。有り難う」
微かに震えた肩が気になる。
その日から、彼女の中で俺の立ち位置が変わった。
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