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Vote1佐藤梓
「何で?何で結婚したくないの~
どうして出てけって話になんの~」
この男、小泉遼太郎が、ここまでなるのも珍しい。
次の日の保育の仕事に差し障るからと、平日は酒、煙草はやらない男。
多分、休日も飲まないだろう。
その代わりセックス中毒かって程、女をとっかえひっかえ。
私は日本酒をチビりチビりと飲みながら、さっきからカルーアミルクをお代わりし続け、くだを巻いてる同僚に目をやる。
「サトー、お前、何でだと思う?
俺に何が足りないの?」
顔を真っ赤にして、さっきからカウンターに突っ伏してた小泉が、私に向き自虐的に嗤う。
「精子?子種?そりゃ無いわ~」
本来なら豪快に気持ち良く飲みたい。
丁度生酒の美味しい時期だ。
だが、こんな甘い酒を浴びる様に飲んでる男を、帰路どうにかしなきゃならんと思うとセーブするし、酒が不味い。
「…アンタさ、落ち着いてたんじゃないの?望くんママと」
去るもの追わず、来るもの拒まずの小泉が、ここ一年程一人の女性といた。
「落ち着いてましたよ~ラブラブでしたよ。…あのビアンの女が来るまでは」
小泉はグラスに付いた水滴をなぞる。卑猥な手つきだ。
次の酒を選ぼうとメニューをとって、
「プロポーズはしたの?」
人の恋バナは、どうでも良いが一応聞いてみる。
「…まだ、本人には、ハッキリとは…」
「はあ?」
珍しい生酒の蘊蓄を読んでた私は、思わず大声を出した。カウンター越し、マスターに目で謝り
「馬鹿?キチンと筋通さないでフェードアウトすんの?アンタ得意だもんね、ヤり捨て」
「サトー、優しくしてよ~
俺、望くんには言ったよ。俺がママと結婚したら嬉しい?って」
「…で?」
「リョータ先生なら、大歓迎だって~」
現場の子供達は、遼太郎の事を縮めて遼太先生と呼ぶ。
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