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姫を執拗に追う軍は、彼女がこの館に隠れているという密告を聞きつけて、踏みこんできた。だが、その寸前に、近衛兵たちの機転により、姫は逃がれていた。そこで、踏みこんできた兵士たちは、ひとり残ったギルフィーを拷問にかけ、キエナ姫の逃亡先を聞き出そうとしたのだった。
「まったく強情なやつだな。ギルフィー、お前だって命が惜しいだろう。あれを見ろ」
ひげの男が指さした部屋の隅の床に、小さな箱が置かれていた。箱の表にはLEDの表示パネルがついていて、いま〈15:27〉という数字が出ていた。
「あと十五分と少しで、あの爆薬が爆発する。この館は木っ端みじんにふっとぶ。安全な場所まで逃げるには、五分は必要だ。いまお前がすなおにキエナ姫の逃げた先を白状したら、ぎりぎりでお前を助けてやれるんだぞ」
ギルフィーは、拷問によって半分つぶれかけた目を、ひげの男に向けた。
「……キエナ姫は……我らの最後の希望だ。おれの命と引き換えになど、できるものか」
「ふん、ならばしようがない。死ぬがよい。もう、おれたちは――」
そこまで恫喝を続けていたひげの男は、「ん?」と、くぐもった声を出した。軽い立ちくらみのような違和感を覚え、こめかみに指を当てて、二、三度、目をしばたたかせる。だが、頭を軽くふると、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「とにかく、ギルフィー、おれたちはもう引き揚げるぞ」
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