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「ん?どうかしたか?」
急に顔を俯けて、不安そうに目を伏せている。
「何か思ってることがあるなら、聞いてやるから、何でも言っていいぞ。溜め込んでると辛いだろ?」
只事じゃない様子に心配になる。声を掛けるだけじゃ足りない気がして、月子の頭をポンと撫でてみた。ドキドキする余裕なんて、今はなかった。
「お母さんの病室からの帰りにね、長い廊下を歩いていたら、病室の前で泣いてる家族がいたの。大人の男の人と、中学生くらいの女の子と、5歳くらいの男の子。きっと家族だよね。泣きじゃくる女の子をお父さんらしき男の人が抱き締めて一緒に泣いてて…男の子はよく分かっていない感じでポカンとしてた」
月子の話の通りに状況を思い浮かべて、きっとそれは悲しい結末なんだと想像出来た。
「うちはお父さんが事故で死んじゃったけど、それこそ私が小さいの時のことだし、ほとんど覚えてなくて。だから、人が死んじゃう現実を、初めて実際に目の前にして、ああ、こういうことなんだなって、スゴく恐くなっちゃった」
もし、お母さんの手術が上手くいかなかったら…そんな想像を、その家族を見てしてしまったんだな。
しかも月子には、じーちゃんばーちゃんはいるにしても、抱き締めてくれる父親も、寄り添う兄弟もいない。
見ず知らずのオレにこんな風に頼ってきたのも、もしかしたら、父親や兄弟的な存在を求めていたからなのかもしれないな。
見た目は大人っぽくても、やっぱりまだまだ月子は子供だ。守られるだけの存在でいていいはずなのに、細い肩で必死に独りぼっちになる恐怖と戦っている。
「今日は星に願える最後のチャンスなのに、あんまり星も出てないし、どうしよう。もしお母さんの手術が成功しなかったら…」
堪えきれずに、月子の瞳から涙が溢れる。
オレはどうにかしてやりたくて、月子の薄いてのひらを両手で包んだ。やましい気持ちなんて微塵もない。ただ彼女を励ましたいだけだった。こんなに蒸し暑い日なのに、月子の手はひんやりと熱を失っている。それに気付いてまた胸が痛くなる。
「オレがパワーを分けてやるから、心配すんな。おまえが信じなくて、誰が信じるんだよ!大丈夫、お母さんの手術は絶対成功する。今日星が見えなくたって、もう何度か2人で流れ星に願ったろ?」
小さい子に言い聞かせるみたいに、オレはゆっくりと話す。
「それに、月子の強い思いは絶対空に届いてるって。こんなに一生懸命願ってるんだから、間違いないよ」
月子は涙を流しながら、こくこくと頷いた。
「ありがとう。私リュウくんがいてくれたら、何でも頑張れそう」
それは今のオレにとって、最高の褒め言葉だった。
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