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こんな風に、人を慰めたりするのは、正直今までのオレにはないことで。ましてそれが女子だなんて、ありえないことだった。
オレは基本ポジティブな人間で、弱い心に寄り添うなんて、細やかな気遣いは苦手なんだ。相手が何か言って欲しそうだと気付いていても、敢えてそれを言わない、ひねくれたところもあった。言いたくないことを言うなんて、無駄な労力だとも思っていた。ああ、だから女子ウケが悪かったんだな。
だけど今のオレは、心から月子を慰めて励ましたいし、元気が出るまで傍にいてやりたい。彼女が元気になるためなら、彼女が求める言葉をいくらでも言ってやりたい。
月子に出会った僅かな期間で、オレは随分変わったなと、自分自身で感じる。そして変わった自分を、オレは案外気に入っていた。
「リュウくん、これ、貸して」
月子がオレの肩から湿ったタオルを抜き取る。
「え?いいけど、でも湿ってるぞ」
「いいの。持って帰るけどいい?」
「え?持って帰る?なんで?」
突然の意味不明の言動に、訳が分からない。湿ったタオルを持って帰るって、何に使うんだ?
「明日お母さんの手術の時、リュウくんのタオル一緒に持って行く。ホントはリュウくんに傍にいて欲しいけど、それは無理だから、代わりにするの」
急に小さな子供みたいな喋り方をする月子が可愛くて、オレの胸はまたギュウっと締め付けられた。
「まあ、そんなもんでいいならいいよ。オレも学校で祈っとくからな」
「うん!ありがとう!」
オレのシャンプーの匂いが着いたタオルを、月子は嬉しそうに抱きしめた。まるでオレが抱きしめられているようで、むず痒い気持ちになった。
明日の手術、絶対に上手くいくといいな。そして月子が笑顔になるといいな。
その日はやっぱりもうほとんど星は見えなかったけれど、月子の強い思いはきっと届くと、オレは信じていた。
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