流星

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流星

いつもより随分時間が早かったけれど、オレは居ても立ってもいられなくて、もう公園のベンチに座っていた。 いつもは月子が先に来て、ここにひとりで座ってるんだよな。 男のオレでも田舎の夜の公園は心細い。薄暗いジャングルジムの奥でカサッと草が揺れただけで、思わず身構える。 よく頑張ったよな。小学生の女の子が。ホントにスゴいと思う。だからこそ、絶対に願いが叶ってるといい。 あの公園の入り口から入ってくる月子が、とびきりの笑顔だといいな。 考えたくはないけれど、もし悲しそうな顔だったら、どうしてやればいいだろう。小細工は苦手だから、オレの出来る限りで優しくしてやろう。頭を撫でて、元気が出る言葉をいっぱいかけてやろう。 嬉しそうな顔か、そうじゃないか、その2択しか考えていなかったオレの耳に、バタバタと道路を走る音が聞こえてくる。 月子が来たな。随分急いで走ってる。慌てなくても、まだ約束の時間には早いのに。 そう思って入り口を見ると。 予想していたものと、そのどちらでもない何とも表現しがたい表情をした月子が、息を切らして駆け込んできた。あえて言うなら、切羽詰まったような顔だ。 どっちだ?これは。いい結果か?悪い結果か? 測りかねているオレの方に、もの凄い勢いで向かっていて、そろそろブレーキかけないと、ぶつかるぞと思いながら立ち上がったところに。 ドスン! 本当に、そのままの勢いでオレの胸の中に飛び込んで来た。 え? 飛び込んできた月子は、オレの背中に回した手にギュっと力を入れる。 何だコレ? オレ、抱きつかれてるのか? どうしたらいいのか、どういう意味なのか、手術はどうだったのか、分からないことだらけで戸惑うオレに、月子が抱きついたまま呟いた。 「流星くん」 え?今、オレの名前を呼んだか? 「うん?」 「やっぱり、流星くんて名前なんだね」 「ああ、そうだよ。ちゃんと言ってなかったかな。大下流星っていうんだ、オレの名前」 月子がなぜこのタイミングでそんなことを聞いてくるのか、いやそれよりも、なぜオレに抱きついているのか、理由が全く分からない。 抱きつく月子を抱きしめ返すわけにもいかず、行き場を失くしたマヌケな両腕は宙に浮かせたままだ。 「星の精とか、宇宙人とかじゃないよね?願いが叶ったら、消えていなくなったりしないよね?」 は?星の精?宇宙人?何の話だ? 「何の力もない、ただの人間だけど?」 今日の月子の言動がマジで理解出来ない。 とりあえず一番気になっていたことを聞いてみよう。 「それより、お母さんの手術はどうだった?」 「成功したよ。目を覚ましたお母さん、私に向かって笑ってくれた」 「ホントか?良かったなぁ!月子の願いが届いたな!」 ホッとして、思わず月子の肩を両手で掴む。 すると月子は抱きついたままの至近距離で顔を上げ、オレに真っ直ぐに向かって言った。 「流星くんのおかげだよ。こんなに大きくて、あったかくて、消えない流れ星が、ずっと隣りに居てくれたんだもん。叶わないはずないよ」 すがるような潤んだ瞳で見つめられ、オレは咄嗟にマズイと感じた。
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