流星

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「借りてたタオルのタグにね、流星って書いてあるのに気付いて、最初は何でこんなところにって思ったんだけど、普通そこに書くとしたら名前でしょ?それでホントは流星くんって名前だったんだと気付いて、びっくりしちゃった!」 オレが渡したリンゴジュースをゴクゴクと飲み、月子の方も落ち着いたらしい。不可解な言動に至るいきさつを話してくれた。 心細い思いをしながら、流れ星をさがしていた自分の前に突如現れたヒーロー。その名は『流星』。星の見える夜しか会えないレアキャラ。その正体はもしかすると人間ではない何かかも…なんて妄想をしてしまったら、どうしようもなく不安になった、的なことを(オレまとめ)月子は照れ臭そうに話してくれた。 「そんなわけないのにね。昔そんな童話とか大好きで、よく読んでたから影響されちゃったかな。私、ずっと『リュウくん』だと思ってたから、『流星くん』って知って驚いたよ。なんで教えてくれなかったの?」 「何でって…特に意味はないかな。だいたいみんな昔からオレのこと『リュウ』って呼ぶし。まあ女子とかは『流星』って呼ぶヤツも結構いるか」 何の気なしにそう言うと、月子は少し不機嫌そうな顔をした。 「じゃあ私も『流星くん』って呼ぶ!」 「うん。てか、さっきもうそう呼んでたじゃん」 走って公園に飛び込んできた月子は、今日はずっと『流星くん』って呼ぶから、何でだろうと気になってはいた。 名前を知ったからだったんだな。というか、ちゃんと言ってなかったことすら気付いていなかった。そんなに感動してもらえるなら、もっと早く言っておけば良かった。 しかし、月子の中でオレは随分カッコイイキャラになっているんだと知り、かえってプレッシャーを感じてしまう。 だって、言い換えれば、勝手に覗き見してたようなもんだし、しかもこんな年下の子に対して好意を持ってしまっている。どっちかと言えば、変態の域じゃないのか!? 自分で考えて、激しく落ち込んでしまう。落ち着こうと思って飲んだブラックコーヒーは、思った以上に苦くて身に沁みた。 「タオルは洗って、また次に会った時に返すね」 また会った時。 そうだ、手術は無事終わった。願いは叶った。 これからって、どうなるんだ? この先のことなんて考えていなかった。何か特別な理由と場所がない限り、高校生と小学生のオレたちが会うことなんてまずない。 「手術は終わったけどね、お母さんが元気になるっていうのはまだ叶ってないでしょ?だから、流星くんさえ良ければ、もう少しこうやって会うの続けてもらえないかな?」 同じことを考えていたのか、月子がそんな提案をして来た。 そうだよ。これで終わるのは、オレもイヤだ。 「いいよ。『元気回復』がまだだもんな。テスト前とか、来れない日もあるかもしれないけど、その時はまた言うな」 「うん!ありがとう」 次の約束が出来て、オレは嬉しくなってニヤついた。それは月子も同じようだった。 「私ね、今更気付いたんだけど。流星くんのこと、ほとんど何も知らないなって思って」 そう言って月子はオレのことをじっと見つめる。 だからそんなに見られたら、全部見透かされそうでヤバイんだって…。 「明日はノート持って来るから、流星くんのこと、いっぱい教えてね!」 「え、ノートまで持って来んの?オレ全然ふつーの人だよ」 「いいの!だからちゃんと全部答えてね?」 月子にそんな風に言われたら、断れるはずがない。 「じゃあオレも月子のこと色々聞くからな」 「うん、いいよ。じゃあお互いのこと教えっこしようね!」 教えっこって…可愛いな。 嬉しそうに笑う月子を見ていると、オレもつられて嬉しくなる。 月子と過ごすこれからの日々を思って、オレの胸はまた高鳴った。
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