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姫と騎士みたいに
次の日の夜。
昨日より早めに風呂を終えたオレは、今日は真面目に課題に向かっていた。
と言っても30分もすると集中力は途切れ、シャーペンを手放す。
勉強は苦手だ。テスト前なんて、じんましんが出ることもある程、オレは勉強に向かない体質らしい。公立高校に受かったのも、奇跡みたいなもんで、誰よりもオレ自身が一番驚いた。
もういいや。明日誰かに写させてもらおう。
いつも通りの安直な考えで、こんなだからテストの点も一向に上がらないんだって分かっている。分かってはいるけれど、ヤル気が起きないんだから、仕方ない。
「はぁーっ」
溜め息をついて、気晴らしにストレッチでもしようかと立ち上がると、窓から外の景色が見える。
そう言えば、昨日の子はどうしただろう。
昨夜はあんなに気になっていたのに、今日一日を過ごす間にすっかり忘れていた。
窓を開け、夜の静かな公園に目を凝らす。
うわ、今日もいる!
昨夜と同じように、街灯下のベンチに少女がひとり座っていた。
ただ空を仰いで。
星を、見てるんだろうな、やっぱり。
左上に首を向け、しばらくすると真上、またしばらくすると右上。それを繰り返し、変わらないのは、彼女の視界にはずっと、夜空の星だけが映っているだろうことだ。
星が好きなんだろうな。
でも、だからと言って、女の子がこんな時間にひとりでいることは望ましくない。
オレはその日も彼女を見守ることにした。
結局その日も特に何かが起こることもなく、昨日と同じくらいの時間になると彼女は帰って行った。
それからの数日間。
曇りや雨の日、つまり星が出ていない日には彼女は姿を見せなかった。
ただし、晴れの日は必ず現れ、だいたい1時間近く、天を仰いでいた。
時たま急に立ち上がって、そしてまた腰を下ろす。そんなことぐらいで、特に変わったことは起きなかった。
誰に頼まれたでもなく、窓辺から彼女を見守ることが、最早晴れの日の日課になっていた。
飽きっぽいオレにしては、それはかなり珍しいことだ。
ボランティア精神というか、カッコ良く言えば、姫を守る騎士きどりだ。
そんなことを続けていれば、自然と彼女に対して興味と親近感が湧く。
近くで見たらどんな顔してるんだろう。
声はどんな感じ?性格は?どんな風に喋るんだ?
妄想しているうちに、彼女に認識すらされていない今の自分の立場に、物足りなさを感じるようになった。
そんなある日。
とうとうちょっとした事件が、いや、オレにとってはむしろチャンスがやってきたんだ。
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