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二人きりになった夜の公園で、何かの虫の声だけが響く。人気がなくたって、田舎はいつだって虫の声でうるさいくらいだ。
何も言わないまま立ち尽くす彼女を見て、急に焦りを感じ始める。
「あのっ、もしかして、勝手に余計なことしちゃってたら、ゴメンな!」
騎士気取りで飛び出したオレだけど、よく考えたらこの主従関係って、彼女の全く知らないところで勝手に始めているものだった。
彼女からしたら、何この人?ていうか誰?何で兄のふりとかしてんの?キモチワルー、くらいに思われてても不思議じゃない。
ヤベー
よし!深く突っ込まれないうちに、帰ろう!
「じゃ、オレはこれで!」
相変わらず短絡的な答えを出し、出入り口の方に向きを変えた時だった。
「助けてくれて、ありがとうございます」
震えがちの、
風鈴の奏でる涼やかな音のような、
高くて小さな声が、背中越しに聞こえる。
ゆっくり振り返ると、彼女が2、3歩こちらに近付いてきた。
「私、ユウコじゃなくて、月子っていいます」
さらに2、3歩近づいて、オレと彼女の距離はもう2mもない。
間近で見た彼女の可愛さに、今度はオレが声を出せなくなる。
黒目がちの大きな瞳に、作りもんみたいに長い睫。通った鼻筋に、暗がりでも赤く浮かび上がる形のいい唇。
「お兄さん、もうちょっとここにいてくれませんか?私…少し怖くなっちゃって」
マジかよ。
こういう時、漫画でよく火山が噴火するような描写があるけれど、ホントにオレの頭の中で、何かがパーンと弾けた気がした。
今まで女子を可愛いと思ったことは何度もあったけれど、こんな感覚は初めてだ。
上目遣いでそんなこと言われたら、拒否できる男いるか?
イヤむしろ、それはオレの望むところだった。
窓から見つめるだけで、何の進展もない日々にそろそろ飽きていた。
そしてもっと近くに行ってみたいと欲が出ていたところだった。
望みが叶ったその日の星空は、いつも以上に空気が澄んでいて、まるで降ってきそうだと、今更ながらに思った。
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