1 今村家

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 同じ専業シュフとして、真島はアルコール依存症に陥った従妹の気持ちがわからないでもない。さておき、昨夜キャリアウーマンの妻に捨てられた事実上の「元」主夫で、住所不定無職となった自分よりもむしろ、子持ちの竜次の抱えている問題の方がより切実だと思う。専業主婦の嫁を欠いてしまっては、小学生の三人の娘がいる男性勤務医の家庭は回らない。 「祐一郎、ウチの家事も頼めんだろうか? 最低限でいい。お前の時間の許す限りでいいから」  大学の一年後輩で働く妻の弥生から「事実離婚」を切り出されていなかったとしても、竜次からのこの頼み事は二つ返事で引き受けていたに違いない。無二の親友との縁は、妻よりも深いとも言える。  真島は中学校や高校のころから、同級生の竜次とは何かと気が合った。競い合ったテストも、よく同じ問題を間違ったものだ。大学に入ってから弥生と結婚するまでの六年間、同じ一Kの安アパートの別々の部屋に住んでいたころも、公務員志望だった自分が、日々の勉強に忙しい医学生を気遣って合鍵を持ち、竜次の部屋も掃除し、洗濯や炊事も二人分こなしていたことを思い出す。
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