1 今村家

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 大厄の年を無事に乗り切れると思っていた、妻の会社の仕事納めの日の深夜に、真島はとんだ災難に見舞われてしまった。自分の今後はともかく、一番の問題は芽衣の気持ちだと考え直す。まだ小学四年生の甘ったれの一人娘に、両親の事実離婚など、簡単には受け入れられまい。つい半年前の梅雨時まで、夜一人で寝るのが怖いと、芽衣はよく父親のベッドに潜り込んで来た。真島が家を出ることは、パパっ子の娘には寝耳に水の可能性も高い。根回しが不得手なのも、弥生の欠点の一つだ。  真島の到着をK市の自宅で待ち構えていた竜次は、一階の和室の押入れから布団を一組取り出しつつ、この空いている部屋を好きに使っていいと言ってくれた。親友と入院した従妹の夫婦宅に居候し、引き続き家事をこなしながら今後の身の振り方を決めるのは、自分にとっても最善に違いない。専業主夫歴、間もなく九年の大厄の男は思う。「社会復帰」は容易でない。じっくり考える必要がある。
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