1 今村家

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 多美は、真島につられるように、控えめにだが表情を崩し、何かを言いかけて止めた。 「で、何に呑まれたんだ? やっぱり、焼酎か?」  真島と多美の生まれは、米焼酎の産地だ。二人とも若いころから酒豪だった。お前らは底なし一族か、と竜次によくからかわれたものだ。 「焼酎は、飲みなれた熊本の米。鹿児島の芋も。ウィスキーにもはまった。ビールも少々」  少々と言っても、レギュラー缶二、三本は軽々と飲める女だ。真島は、同情せざるをえない。飲んでさえいれば、やりたくないときであっても、単調で面白いとは言い難い家事にも取り組める。自身の経験から言えば、毎日の献立作りに、夕食を作るはともかくその後の食器洗い、弥生や芽衣の弁当箱や箸セットを洗うのも面倒だったし、雑巾を使っての床の拭き掃除、風呂やトイレやシンクの黴や水垢落とし、と言い出したら切りがない。車の運転をする必要がない日に、飲みながら家事をこなしたことも少なくなかった。
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