ミッドナイトブルーの邂逅

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 この世に運命というものが存在するのなら、始まりはきっとこういうものだと思う。  会社帰りにたまたま寄った、近所のレンタルビデオショップ。探しているのは、初めて観たときから大好きな、洋画のラブロマンス。金曜の夜更かしのお供に選ばれたそれは、俺の運命まで引き寄せてきたらしい。 「あ、すみません」  指先が触れたのはほんの一瞬のことだった。  触れた場所から電流が走ったようだ、なんて言うと、思春期真っただ中の従弟に笑われそうだ。  けれど、この感情はおまえが嘲笑しているような恋だの愛だのではない。もっと深い繋がりをもたらしてくれるような、俺のこれからの人生をまるっきり変えてしまうような。そういうものなのだ、きっと。……みたいなことを言うから余計にげんなりされるんだろうなあ。  俺が、ささやかな反抗期に突入している従弟に思いを馳せている間、俺と同じ映画を選ぼうとしていた少女は、すぐに指先を引っ込め、後ろで手を組み控えめに笑った。  白地に紺色の襟とタイという、オーソドックスなセーラー服に身を包んでいる。まさに、従弟が通う学校の制服だ。目鼻立ちがはっきりした、笑顔が素敵な美人——俺の恋人に、どこか似ている。 「わたし、それもう何度も観てるんで。お兄さんどうぞ」  少女は再び無数の映画が陳列されている棚に目をやった。その力のこもった瞳で選別されている映画たちの気持ちになると、たまらなくなる。  なんとなく、このまま終わってしまうのは、惜しい気がした。
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