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「この映画、好きなの?」
「あ、はい」
少女の答えは、心からの返事と言うよりも条件反射のように感じたが、構うことなく、俺はちょっと犯罪者臭いセリフを口にした。
「よかったら、これから一緒に見ない? 俺の家、ここから近いんだ」
少女の瞳はそれ以上大きくなることも小さくなることもなく、ただじっと俺の姿を捉えていた。
なぜこんなことを口走ったのか。そう、誰かに聞かれても、わからないとしか答えようがない。
本当にわからないのだ。だから、そう、これは運命だから。
この出会いから何かが始まるなら、始まりを終わらせてはいけない。俺は運命を続けるために、少女を自宅へと誘った。——今度こそ気をやったと思われそうだ。
いや、そうだな。理由をつけよう。俺へ映画を譲った時の少女の瞳が、悲しそうだったから。まるで探し求めて来たものを自ら手放してしまうような、そんな瞳だったから。
放っておけなくなった。そういうことにする。
困っている人を助けようとしただけ。
少女はゆっくりと、口元を緩めた。
「いいんですか? ぜひ、ご一緒させてください」
俺も大概なのかもしれないけれど、俺からするとよっぽど君の方が気をやったんじゃないかと思うよ——とはさすがに言えず。
俺のお金でレンタルしたDVDを持って、少女とふたりで狭いアパートまで向かった。
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