last play

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「まだまだこれからだ!」 H型のポールの下、円陣を組み気合いを入れ直す。 終盤まで相手の猛攻を耐え続けていたが、ついに逆転のトライを許してしまった。 24対27その差は3点。 試合時間は残り5分。  国と国の威信をかけたラグビーの試合に満員の観客がエールを送る。 「負けるなー!」 「ここからだぞ!」 「がんばってー!!」  円陣を解き、ジャパンのジャージを着た選手がポジションにつく。 試合を再開するキックでボールが高く蹴りあげられた。 相手チームの2Mを越える大男がキャッチし、突進してくる。 ドカッドカッと筋肉同士がぶつかる音を響かせながら味方が1人、2人と弾き飛ばされた。 ようやくタックルが決まり相手を倒すもすぐにパスを出され、また別の大男が突進している。  だが、そこで相手にミスが起きた。 相手チームがボールを前に落としたのだ。 ラグビーではボールを前に落とすと反則だ。 ジャパンボールのスクラムで試合は再開される。  自分を落ち着けるため山本は大きく深呼吸をした。 憧れの日本代表に選ばれて以来、自慢のスピードを生かしトライゲッターとして活躍してきた。 だが、この試合は徹底的にマークされてまだ活躍は できていない。 活躍するならここがラストチャンス。 「クラウチ、バインド、セット!」 レフェリーの掛け声で100㎏を越える男達の塊が、ぶつかり合う。 大迫力のスクラムに観客の声援にも熱が入る。  山本はグラウンドの端でその時をじっと待つ。 スクラムから出されたパスを味方が受け、突進を繰り返す。 右に左にパスを展開し相手を翻弄していく。 試合も終盤、みんな疲労もピークに達しているが気力を振り絞り倒されてもすぐ立ち上がりまた相手に向かっていく。 やがて、試合時間が80分を過ぎたことを知らせるホーンがなった。 ラストワンプレー。 プレーが途切れれば相手チームの勝ち。 トライを取れればジャパンの勝ちだ。  密集からボールが出され、左、左と大きくパスを展開していく。 山本は近づいて来るボールと相手のポジショニングを見ながら呼吸を合わせる。  今だ! 山本が全速力で走りだし、トップスピードになったところで味方のパスを受ける。 相手チームのディフェンスにはわずかにスペースがあった。 山本はそこを見逃さない。 相手チームがなんとか山本を止めようとタックルするが、わずかに手が触れるのみで山本を止めることができない。  前が大きく空いた。 トライゾーンまであと40mほどか。 この日のために山本はスピードに磨きをかけてきた。 持てる限りのすべての力を振り絞り、山本は走る。 相手チームが必死の形相で追いかけてくる。  だが、山本には追い付かない。 勝利を確信し、観客が歓声をあげスタジアムが揺れた。 回りがスローモーションのように流れていく。 熱狂する観客 頭を抱える相手チームのサポーター 興奮して絶叫するアナウンサー  それらを全て山本は感じ取った。 10m……5m…… スパイクで蹴りあげられた土が中に舞う。  勝利のトライをするため、山本はボールを抱え飛び込んだ。 ふわりと山本の体が宙に浮き、地面が近づいてくる。 誰もが叫んだ。 「行け!山本!!」 ビーーーーーーーーーーーーーーーー 大音量が響く。 まだだ、待ってくれ。 今、いいところなんだ。 山本はうっすら目を開ける。 見慣れた天井が見える。 あと5分だけ…… 山本は乱雑に目覚ましを消した。
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