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第一次審査
審査番号のプリントされたタグを胸に着けた三百人の入職志望者は、大講堂のそれぞれ指定された席に腰を据える。
坂崎のタグは「300番」、最後尾の志望者だった。
審査ではA4サイズの紙が二枚、全員に配られる。
一枚目の紙は一般的な「履歴書」の雛型だった。すでに提出しているはずの履歴書を配られた理由が坂崎には理解できなかった。
そして二枚目の紙は冒頭に「あなたのアピールポイントを述べてください」とだけ書かれていた。その下には広い空白があった。
試験官はアナウンスする。
「これらの用紙に記載をしてください。回収しましたら、三人の審査員が採点し、一時間後に合否を通知しますので、その場でお待ちください。記載のための時間は五分です」
五分。その短い制限時間に、会場中に緊張が走った。
「それでは開始してください」
いっせいにペンが走り出すなか、坂崎はひとり困惑していた。自分にアピールポイントなどあるはずがない。嬉々とした高見沢の顔を想像した。
最後尾から会場を見渡すと、大勢の机に向かう姿が目に入る。そこで、坂崎はふと思ったことがあった。
――三百人もいるのに、たった一時間で採点なんて、審査は大変だなぁ。
そう思い、坂崎は履歴書を丁寧に書き上げ、せめてもの試験の記念として、二枚目にはたった一言だけ、ぽつりと書き記した。
「はい、終了です」
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