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最終審査まで、あと五分
坂崎は狐につままれた気分だった。
残された三十名の中の一名になれるなど思ってもいなかった。振り返っても、自分に有利な要素など、何もなかったはずだ。
ただ、この審査の目的が、淡い輪郭をなして浮かび上がっている気がした。
そして最後の審査内容が発表される。唐突にモニターが灯った。画面にはこう表示されている。
「これから最終審査を行います。会場はここから、300メートル離れた場所にある有日ビルの10階、になります。集合時間は午後四時、遅れた方は減点となります。では、スタートしてください」
皆、すかさず自分の腕時計に視線を向けた。坂崎が時間を確かめると、時計の針は午後3時55分を指していた。
――あと五分、しかない。
皆、怒涛の如く部屋から流れ出し、階段を駆け下りていく。坂崎もつられて飛び出そうとしたが、人波の勢いに負けて身を引いた。明らかに後手を取っていた。
坂崎は焦り待ちわびる間に再度、視界に映る文章の表記を読み直す。
――あれ?
微かに、ほんの微かにだが、坂崎は表示されている文章に違和感を覚えた。もう一度読み直して、はっとなった。
この文章って、もしかしたら。
そんな事、あり得るはずがない。
そんなのは僕の勝手な解釈だ。
だけど、もしそうだとしたら――
混迷していたところで、ようやっと道が開けたので、坂崎は自分の邪推を振り払って皆の後を追った。
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