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審査開始前
坂崎 直は、始まる前から落胆していた。
いまだに就職の内定がなく、最後の望みをかけた入社試験だったが、到着と同時にわずかな希望さえも砕かれた。
世界最高峰のインターネットセキュリティシステムを提供するIT企業、「レッドシールド・カンパニー」の入社試験は常に激戦を極めている。毎年、入社を夢見る若者達が殺到するが、その一員に加わることができるのはごく一部の、「選ばれた人間」だけだ。
試験は必要に応じて不定期に行われ、一日で終了する。今回、300名の志望者に対して合格はたったの一枠だった。
リクルートスーツの若者達は誰もが自分よりも優れた人間に見えた。坂崎はお門違いもいいとこだと今更後悔する。
「よぉ、お前も来ていたのか」
「まさかここで会うとはな」
声をかけてきたのは高見沢と桜井だった。別の大学に進んだ、高校時代の同級生だ。
背が高く笑顔が爽やかな高見沢は、大学時代に様々な資格を習得していた。英検準一級、日商簿記検定二級、それにオフィス検定など、売りになる要素が多い。
成績優秀で一流大学に進学した桜井は、大学時代、物理学の研究論文を出版しているらしい。学歴や実績という点ではどう足掻いても坂崎に勝ち目はない。
坂崎はボランティア活動ではなんの売りにもならないと、二人を目の前にしてさらに打ちのめされていた。
「まっ、受かるのは多分、俺だけどな」高見沢は眩しい笑顔で口角を上げた。
「高見沢君、僕は負けるつもりはない」桜井は人差し指で眼鏡の位置を取り直した。
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