溺れる嘘

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 むずむずする体の変調に気付いて、塁は重たい瞼を上げた。  薄暗い視界。それでも、何度も入り浸ったことのあるいつもの場所だと瞬時に分かった。周の部屋だ。  しかし、雰囲気がいつもと違う。はあはあ、と荒く苦しそうな息が聞こえてくる。加えて、嗅いだことのある、性的欲求を擽る甘い匂いが微かに塁の鼻をついた。 「周……?」  いるはずの部屋の主の名前を呼びながら、感じたことのない感覚に身を捩る。その瞬間、塁の臀部にどろ、と粘ついた感触を覚え、塁は飛び起きた。 「ッ!?」  恐らく、外から付着したものではない。何故なら、その液体は確かに、塁の体内から流れ出したのだから。  血の気が引いていく。  どういうことだ。なんなんだ、これは。 「……はあ……はあ……っ」  切羽詰まったような息が聞こえて、顔を青くしたまま塁はその音のした方へ顔を向けた。  六畳の洋室の隅で、壁に背を預けて座り込み、右手で胸元を掴んで自分の着ているシャツに深いシワを作る周の姿が、塁の視界に映る。フローリングの上にある左手は、薄暗い部屋でも震えているのが分かるほどに固く握られていた。 「しゅ、う……」  再び口にしたその名前に、周の体がぴくり、と動く。そして、俯いていた顔をゆっくりと上げて、獣のように光る目をベッドの上の塁へと向けた。 「──っ」  喰われる、と本能が恐れた。見たことのない友人の表情。怖い。なのに、体はその視線と共に、ぞくりと悪寒にも似た快感を受け取っていた。  この現象は、知っている。──発情(ラット)だ。 「お、まえ……オメガ、だったのか……!」  周が唸るように叫ぶ。その言葉に、塁の脳は思考を停止した。  ──オメガ?  アルファ家系に生まれ、病院の検査で間違いなくアルファであると診断され、アルファの特徴とされる整ったマスクに高い身体能力、そしてやればやるだけ優秀な成績を叩き出す脳を持った自分が、オメガだと周は言った。  有り得ない。そんなことは、絶対に有り得ない。  いつもの自分なら言い切れる。笑い飛ばしながら、冗談はやめろよ、と反論できる。  しかし、今の塁にその自信はなかった。  ひくりと収縮した肛門がさらに粘液を吐き出す。その感覚に、腹の中が疼いた。学生の保健の授業で、オメガは発情すると相手を誘い込むために後ろから液を溢れさせるのだと教わったことを思い出す。  目の前には、ラット状態のアルファがいる。微かだが、甘い匂いも感じる。見渡す限り、この部屋にいるのは、周と塁の二人だけ。  俺が、オメガ──?
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