溺れる嘘

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「ち、ちが……俺、オメガじゃ、ない……!」  受け入れられない現実にパニック状態になった塁の目から、ぼろぼろと大きな滴が流れ落ちる。顔を手で覆いながら俯いた塁の上に、影が覆い被さった。 「……もう、我慢、できない」  低く告げられた言葉の意味を塁が理解するより早く、塁の体がベッドへと縫い付けられた。片手で塁の両手を頭の上でひとまとめにし、もう片方の手で器用に塁の服を脱がしていく。 「いやだ、やめろ、周っ!」  抵抗するために身を捩れば、内部から湧き出す欲求が塁を襲い、体から力が抜けてしまう。  腹の中が痒い。めいっぱい、擦りたい。気持ちよく、なりたい。  今まで考えたこともないそんな考えが、塁の脳内を埋めていく。  下半身が外気に触れ、ばさ、と床に布が落ちる音がした。 「……な、んで……」  周に組み敷かれている状況下で、触ってもいないのに勃起している自身。塁の脳は、その状態を理解できない。  半ば放心状態の塁の股が割り開かれ、粘液で濡れている菊門が周の眼前へと晒された。周のあの燃えるような視線が、親ぐらいしか見たことのない自分の秘孔へと注がれている。縁の皺を周の骨ばった指がなぞると、ぞわ、と背筋を刺激が走り抜ける。 「っあ……んん……!」  ぐちゅり、という卑猥な音を伴って、周の指が内側へと入り込んできた。ぬめり気を帯びた秘孔は、その異物を奥へと誘うように動きを補助する。 「ははっ、あっつ……」 「や、あぁっ、やだ……っ」  体内を掻き回すようにぐるりと指が回され、塁の口から嬌声が漏れる。内部を擦られる初めての感覚が、途轍(とてつ)もなく気持ちいい。 「っあ、やっ、ア、ぁ……っは……」  腹の奥が疼く。もっと深いところを、思いきり擦って欲しい。そんな浅ましい自分がむくりと起き上がってきて、塁は無意識に唇を噛んでいた。  アルファなのに、尻を弄られて悦んでしまっている。更に、体を暴く側のアルファが、あろうことか自身の内部をもっと犯されることを望んでいることに、酷く絶望した。  自己嫌悪に陥りかけた塁の中で、周の爪が腹側のしこりに引っ掛かった瞬間だった。   「ああぁあっ──!」  脳天まで一気に突き抜ける強烈な快感に、塁はがくがくと体を痙攣させた。喉から迸る喘ぎ声は、痙攣する体に合わせて断続的に周囲の空気を揺らす。  ひゅ、と息を呑む音が微かに聞こえたかと思うと、ずるりと体内を侵していた指が引き抜かれた。埋めていたものを失った秘孔は、再び埋められるのを待ち望むかのようにひくひくと蠢く。そこへ宛がわれた、火傷しそうな程に熱を持った何か。  だめだ、と回らない頭が直感的に警鐘を鳴らす。これを赦してしまえば、もう元には戻れない。唯一、親友と呼べる友を失くしてしまう。  どうにか挿入だけは避けようと下半身の位置をずらそうとするが、周の手がそれを阻止するように太股の付け根を抑え込んでくる。  そして、耳元で小さく「すまん」と謝罪の言葉が聞こえた直後、後孔に何かがめり込んできた。 「っああぁあ、や、ああぁぁあ──ッ!」  孔を埋めるどころか抉じ開けていくその熱は、塁の腹の中を膨大な質量で突き進んで行く。容赦のない動きで最奥までぴっちりと埋められ、塁は息をすることも忘れて目を見開き、呻き声を途切れ途切れに出すことしかできなかった。
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