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ミノタウロスの仔だ、という胎児を、二十ばかり見ただろうか。
そのうちの誰も、怪物じみた見た目のものはいなかった。みな通常の赤ん坊を一回り小さくしただけの、人の姿をしていた。
その度に、私は密かに落胆した。
あぁ、今回も。
またか。
まだ、私の旅は終わらないのか、と。
私は待っていたのだ。
母親の胎から引きずり出されるやいなや、恐ろしい牛の形相で暴れる、ミノタウロスの仔に出会うことを。
一度でいいから、人の姿をしていない赤ん坊に会いたかった。
そうすれば、私の長い旅は終わる。
私は自分の罪を認めることができる。
私が妹の腹を裂き、そこから引きずり出した赤ん坊はヒトの子だったと、自分を断罪できるのに、と。
私の旅が終わりを告げたのは、村を出ておよそ三十年後のこと。いつしかミノタウロスの産婆と呼ばれるようになった私に、故郷からの使いが来たのだ。
「話があるから、戻って来てほしい」
そう伝えてきたのは、ダミオの使用人だった。
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