第十話

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「やってくれたわ」  カオルは興奮した表情で社長室に入ると、大きなデスクに一枚の紙を叩きつけるように置いた。 「明日発売の週刊文秋にスクープが載るってファックスが届きました」  女社長の市田ミチルが、一人娘の顔を上目使いにじろっと見る。視線を返すカオルの大きな目には意志の強さがにじみ出ていて、その部分は母親に実によく似ていた。 「本当にいいのね?」 「もちろん!」  ミチルはふうっと大きく息を吐き、紙を手に取って老眼鏡をかけた。 「不倫ねえ……こういう汚い手しかなかったのかしら」  そこには、週刊誌の記事のあらましと掲載予定の写真が印刷されていた。ファックス印刷のモノクロで粗い画像だが、背の高い男がほっそりした女としっかり抱きあっているのがわかる。 「あの子をどっかに隠さないとね」 「今スタッフに例のホテル押さえさせてます」 「手回しが良いのね」 「すぐにでも山口さんに連絡して、ホテルに向かわせないとだわ」  楽しい行事を前にした子供のように高揚しているカオルを見て、ミチルはちょっと肩をすくめた。 「計画通りコトが運んで満足そうね」  娘はあっさりウンとうなずく。 「ずいぶん待ってたけど、もう限界。これ以上あんな不幸そうな姿は見ていたくないし。事務所の将来のためにも一石二鳥になるなら、やらない手はないわ。それに、強引に(わな)()めたわけじゃない。最終的には彼ら自身が選んだのよ」 「あなた、親友じゃなかったの?」  半笑いで問いかける母親に、カオルは片頬だけで笑ってニヒルな表情を作った。 「親友だからこそ、よ。こんな悪役、あたしにしか出来ないでしょう?」
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