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小児病棟の七夕は、短冊に込める願いごとも切実。
そとにいきたい。
元気になりたいとか、走り回りたいとか、そんな贅沢は言わない。
窓から見えるあの小高い丘から、天の川が見たい。
「二十歳の七夕に、あの丘で会おう」
彼は、七夕の今日転院する。
ずっと、隣のベッドにいた同志。
「二十歳……生きてるか分からないよ?」
「生きてるよ、絶対」
二十歳の七夕は、遠い未来と思っていた。
病院から見えた小高い丘に自分の足で辿り着けるなんて、あの頃想像もしなかった。
夜の闇と厚い雲が溶け合う空には、天の川どころか星一つ瞬いていなかった。
流れる天の川に乗って現れる筈だった彼は、来なかった。
彼はなんの病気だっただろうか。
心臓だ。私と同じだったから覚えてる。彼の方が重傷だったから、転院した。
ああ、そうなんだ。そういう事。
一気に力が抜けた。
泣きじゃくる私に友人が教えてくれた。
「七夕は、もう一日あるよ」
旧暦の七夕の夜は快晴だった。
奇跡の星空、天の川。
「きれい……」
この星の中にあなたがいるのならーー、
「久しぶり。よかった、生きてた」
星の瞬きは、神様の奇跡。
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