第4話

2/4
前へ
/34ページ
次へ
 今回のドラマのテーマの一つが、ベンゾジアゼピン系薬剤の重複服用による記憶障害だった。  ベンゾジアゼピン系は主に不眠、不安に用いる薬剤。病院へ行って『このところ寝付きが悪くて……』なんて言うと、大概これが出る。  わりと安全に服用できるタイプの薬だが、やはり長期間大量に飲まれるといろいろややこしい。  というか、以前のロペラミド大量服薬の放送の時にも思ったけど、とにかく飲み過ぎちゃダメだっての。 「あの医者の奥さんの行動は密かに怖かったな。他人の服用した薬の全てをこっそりメモるなんて、ストーカーでも真似できねぇって」  デスクの引き出しに入ってるような薬をいつ飲んだかまで把握するってことは、毎朝、病院まで行って、引き出しの確認作業をしていたってことなのか?  あのお母さま、薬に限らず、ダンナと息子のありとあらゆることについて調べ上げていそうだ。お上品そうに見えるけど、じつはねちっこくて性格悪いのかも。 「そして、俺としてはあの薬の入手ルートが気になる」  さとみちゃんはあの医者が薬を手に入れるまでに薬剤師のチェックが入っていなかった、と言っていたが果たしてそれは可能か?  ストーリー的には自分の病院の薬剤部から勝手に薬を持ち出した設定だったのかもしれない。けれど、1錠や2錠ならともかく、あれだけの量になると薬剤部に絶対バレる。さすがに無理。  つうか、たとえ自分の病院だとしても、薬の持ち出しは普通に窃盗罪だからな、  となると、健康保険を使って処方箋を切るのが無難だが、最近は審査も厳しいから、ベンゾジアゼピン系薬剤を複数処方すると『過剰投与』を指摘されてしまうこともある。  それを無視していた?  それとも奥さんの名前も使って処方をもう一つ別に書いていた?    うーむ……ストーリーからはズレるけど、大分ヤバい話になるな。   「まぁ、薬をちょうだい、って気軽に言ってくるスタッフは時々いるよな」  これだけ薬をたくさん置いているのを見ると、ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃん、って気持ちになるんだろう。特に一昔前はその辺の管理が甘かったから、勝手に飲んでいた病院スタッフもいるとかいないとか。 「でもうちの病院はそういうの断固お断りだから。その辺はお前も徹底しろよ」  一人許すとみんな甘えるからな、と俺が言っているところへ当直明けの医師がやってきた。 「胃が痛くてね。なんかいいのある?」 「そりゃ辛いですね。じゃあこれで」 「ありがとね。助かるよ」  笑顔で去っていく医者。それを笑顔で見送りつつ、背後からのジトっとした視線を感じる俺。 「だ、だって、医者だぞ。杓子定規なことなんて言えるかよ。それに今のは製剤見本としてメーカーさんからもらった奴だし、あれくらいならいいじゃん?! 先生だって薬の効果を自分の体で実感したいんだよ!」 「今渡したのは確かに後発品としては新発売ですけど、先発品なら5年以上前から使われてる奴だから、今更効き目を確かめる必要はありませんよ。まぁ薬剤師歴の短い方にはいつ発売されたかなんて、分からないかもしれませんけど」 「う……」  俺だって医者を特別扱いしたいわけじゃない。でもあの先生はいつも優しくて、つい先日も俺のやらかした過誤をさらっと処理してもらったばっかりで恩義があるって言うかなんと言うか……。 「でもさ、俺だってさすがに向精神薬(マル向)は渡さねぇからな」 「当ったり前です。不当に譲渡したら警察沙汰です!」  きっちりしてるところをアピールしたかっただけなのに、逆に怒られてしまった。  あーあ、大学入り直したことなんてバラさなきゃ良かったなぁ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加