第4話

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「あーあ、薬剤師ってホント医者に弱いですね」 「仕方ねぇだろ。向こうは賢いし、俺ら以上に薬のことも知ってるし」  というか、薬剤師って薬を知らない。  こう言うと語弊があるかもしれないけれど、本当にそうなのだ。  俺たちが扱う薬はヒートに入った状態まで。実際に服用するところは何も知らない。だから錠剤の味とかはもちろん分からないし(前々回でさとみちゃんはロペラミド錠の味を知ってたけど、普通の薬剤師は無理)、浣腸液の注入手順とかはナースの方が断然詳しい。  極めつけは点滴。  だって、うちは混注もナースがやるから、吸い上げの仕方すら知らない。渡した点滴が実際にどうやって使われているのか、つまり静注なのか筋注なのか、中心静脈栄養なのか……そしてロックするとか、側管とか、フラッシュとか、用語の意味までは分かっても、実際に何をやっているのか、何もイメージできていない。  そんなだから『この薬とこの薬は混注していいですか。フィルターが目詰まりしない?』なんて聞かれると『ごめん、分からんから調べる』って言ってしまうんだよなぁ。  それで『薬剤師のくせに薬のことを知らんのか』って、がっかりされるし、つい先日もガチで医者に罵倒された。  はぁ……すんません。添付文書に書いてある以上のことは基本的に分からないんですわ。  多分、医者とかナースに期待されている知識と、現実に持っているこちらの知識のギャップが激しすぎるんだと思う。  そしてこんな使えない薬剤師がいるから、薬剤師の信用度は全体的に低いんだろう。  さとみちゃん、ごめんな。ドラマであれだけ活躍してもらってんのに、俺なんかが足を引っ張って……。 「あのお父さんが薬剤師は医者の奴隷、って言いきるのも頷けるんだ。分かんないから、医者に言われた通りに用意するだけで、提案なんてする度胸も知識も無いし。抗生剤の問い合わせだってあの通り、医者にOKって言われたらすぐに引き下がっちゃうし」 「ま、あのシーンは変でしたけどね。医者も副作用(耳鳴り)が出たところで薬剤部からの問い合わせがあった証拠は残っているんだから、ミスと認めないですよ。自分が敢えて用量オーバーにした理由を説明するだけで、患者には絶対詫びないはずです。そして薬剤師が詫びるとしたら用量オーバーをスルーしたことではなくて、用量オーバーだからこそ耳鳴りが出るかもしれない、もし出たらすぐ相談しに来て、と言わなかったこと」 「でも、それを伝えていたからこそ、患者は相談に来たのかもしれないぞ」 「だったら薬剤師は謝る必要ないです」 「……それもそうだな」  まぁ、ドラマの展開上ねじ込んでしまった、ありえないワンシーンだったってことだな。 「逆に私たちがこれだけは医者より分かってるって分野ありますかね?」 「薬価」  俺は胸を張って即答した。 「うちで扱う薬の値段については大雑把にだけど全部把握してる」 「またお金ですか……」  薬剤師は金にがめついってまた言われそうだなぁ、と彼女は苦笑したのだった。
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