第6話

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「今回はツッコミどころがとにかく多かったけど、あの長崎先生とかいう開業医も変な感じだったなぁ」  まず、最近の医者は処方箋を英語で書かない。レセプト請求が電算しか原則認められなくなっているから、どうせ打ち直す必要があり、手書きの院外処方箋自体が珍しい状況なのだ。  薬局をやってるうちの親がはるか昔に英字の薬名が書かれた処方箋を受けているのを見たことはあるから、皆無とまでは言わないけどさ。  でも、あんな英語だらけの処方箋が来たら、街中の調剤薬局は号泣すること間違いない。患者さんにはいい先生かもしれないけど、薬剤師には超迷惑。 「確かに患者側が薬をむやみやたらと欲しがることはあるけどな。『あの先生、お薬も出してくれなかった』って待合室で不満を漏らす患者さんはいるし、薬が出ることで、ちゃんと診てもらえて安心って感じる人もいる。でもそこに抗生剤を出すかな? そういうときはカルボシステインとかトラネキサム酸とか、飲みすぎても害の出ないやつを選ぶだろ。あのばあちゃんも抗生剤をくれ、とまで限定してなかったわけだし、長期服用でのリスクを理解しておきながらどうしてあの先生が抗生剤のユナシンを選んだのかが分からん」 「そうですよね、考えれば考えるほどよく分かんない行動をしていた先生です。あの長崎医院の中では処方箋を渡すようなことまで事務員に任せず、自分ですべて応対しちゃってたし……実は超働き者?」 「働き者なら自分の病院の診察時間中にわざわざ総合病院まで来ないだろ。朝、さとみちゃんが話をしに行った時の先生は白衣を着て応対していたから、休診日でもなかったはずなのに、よくもまぁ自分の患者さんたちをほっぽり出して駆けつけたもんだ」 「まぁ、あの患者さんたちなら、そういうの許してくれそうですけどね。『なんなら先生、留守の間は俺らが店番しといてやるよ』とか言いそう」  患者さんから愛される平和な病院のようだった。  でもその平和のために限られた医療費が使われているっていうのはちょっと微妙。  さとみちゃんには抗生剤の連用だけじゃなく、そこら辺のツッコミもぜひ入れてもらいたかったなぁ。  まぁ、あのおばあちゃんもエンディングを見る限りでは、これまで何度も失敗していた手芸サークルデビューに成功したみたいだし(しっかし、どうして突然成功したんだろう?)、これからは長崎医師だけに心を委ねることのない人生を歩めるだろう。  めでたしめでたし、だ。 「めでたくないです! あの開業医の先生以外にもツッコミどころはたくさんありましたから!」  そろそろ話を打ち切ろうとしたのに、うちの相方からは鼻息も荒く指摘されてしまった。
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