第7話

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第7話

 今日も今日とて、俺の相方は地味に調剤をしている。 「そういえば、今回のドラマはもう観たのか?」  あまりに黙々と働いているものだから俺が何気なく話しかけてみると、彼女はびくんと肩を震わせた。  その大げさなリアクションにも驚いたが、俺を見つめる目が、殺処分寸前の仔犬のように憐れっぽさで満ち溢れていたから、これはただ事じゃないと思った。 「ど、どした?」 「ヤバいです」 「うん?」 「白血病の治療にツッコミ入れられるほど賢くないっていう自分を思い知らされました」  彼女が涙交じりに(実際は泣いてないけど)語ったのは、今週分のドラマをここで論じるには、教科書を一からひっくり返して勉強しないと無理です、という内容だった。  俺も同じ意見だったから大きく頷く。 「俺も白血病とか全然分かってないな。うちの病院は抗がん剤治療とかを全然扱ってないから、お目にかかる機会がないし」 「はい……私が調剤薬局で働いていた時も、小児科クリニックの隣でしたけど、さすがにそういう重篤な症状の子は来なくて、患者さんは風邪やらの急性疾患の人がほとんどでした。だから待合室で子どもが暴れまわらないかに目を配っていたくらいで」 「ははは。熱の出た子は、意外と元気だからな」 「今回のドラマで理解できた薬剤師のセリフは『ST合剤、欠かさず飲むんだよ』っていうアドバイスくらいですかねぇ」  ST合剤とは抗菌剤の一種。感染症に対する免疫力が低下している人が、予防的に服用する場合がある。 「あぁ、ST合剤って言ってたな。あの女の子もバクタとかの商品名じゃなくてST合剤、っていう薬の種類の方を言われて即座に理解できるんだからすげぇよな」 「薬剤師を目指しているとは言ってましたけど、病気で休学中ですもんね。でも彼女は小さい頃から病気になってるから、自分の病気についてもめっちゃ詳しいんですよ」  そう。もう何年も重病と付き合っている患者さんは、はっきり言って薬剤師よりも薬に詳しい。  そんな人には『困ったことがあったら何でも聞いてくださいね』なんてセリフ、とてもじゃないけど言えない。  さとみちゃんも妹さんが白血病で亡くなった設定だったし、きっとメッチャ勉強したんだろう。  偉いなぁ。俺にはできそうにないなぁ、うん……。
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