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そんな会話を交わした二日後、彼女は今度こそドラマを全部観てきました、と言って出勤してきた。
「ただ、全部観ても結局わかんなかったんですけど、あのオーバードーズの患者さんはどういう病名だったんですか?」
「うん? 育児ノイローゼをきっかけにうつ病を発症してた扱いじゃないのか」
「でも、そういう人ってあんなへらへらした態度になりますかね?」
彼女の言いたいことは分かる。
親身になってくれる元夫に対してのいい加減な態度……うまくいかないことで投げやりになるイメージでの演出だったんだろうとは思うけど、でもあぁいう大胆な開き直り方に辿り着ける人物は、うつ病になりにくいような気もするんだよな……。
いやいや、俺も精神疾患の専門家じゃないからなんとも言えない。きっとケースバイケースなんだ。いろんな人がいるんだろう。
「ドラマじゃ、ロラゼパムとかベンゾジアゼピン系薬剤の減量方法について、漸減法や間欠法を薬剤師が医師に提案しようとしてましたね。専門医に対してガチでそんな話をしに行けるんなら、逆に感動です」
うちの相方にまで失笑されていたが、さとみちゃんが書きだしていた計画書は教科書レベルの話だから、確かに医者へ提案するには今更感があった。
向こうはその減らし方のプロだし、実際には教科書通りになんていくわけないし。
彼女があの計画書の提出を思いとどまってくれたであろうことを、俺は切に望む。
「まぁ、減量方法については口を挟みたくなる時もあるけどな。お前が来る前にここにいた先生で、すごい人がいたんだよ。添付文書に『減量の際には1週間に5mgずつの漸減法で減らしましょう』って書いてある抗うつ薬を、入院してきたと同時に一気に20mg、副作用でもないのに切ってきて。しかもその理由がすごかった。俺の色に染めたいから♡って」
「俺の……色……?」
「自分の使いなれてる薬じゃないと、判断がつかないから薬を変更するっていうことだそうだ。さすがにこの抗うつ薬を20mg一気に切るのはヤバいですって俺も添付文書片手に訴えたけど、代わりの薬を出すから大丈夫だよって押し切られて……」
誰かのこだわり処方は誰かの非常識処方。
転院した瞬間、治療方針がガラっと変わるのはよくある話だ。
明確な正解が無い世界だけに主治医の意見は絶対で、一度医者が意固地になると周囲がストップをかけるのは難しい。
「押し切られましたか……そういう時は、フルパワー100%中の100%でぶつからないと、私たちの話なんて通りませんよ」
「……そうだな。次は戸愚呂弟くらいの気迫で挑むようにする」
……って、何の話でまとめてるんだよ、俺たち。
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