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「そういえば、田中圭君が余命3ヶ月って言われてましたね」
「その言い方だと、俳優本人が死んじゃいそうに聞こえるけど、まぁそういうストーリー展開だったな」
彼女は深い嘆きと悲しみに包まれた吐息を漏らした。
「あんなに優秀な救急薬剤師がいなくなったら、あの病院やっていけるんでしょうか」
「……お前はそういう方面の心配をしたのか」
俺は絶句した。薬剤師は素直に患者の体の心配をできない性分であることを、また証明してしまったではないか。
「だって成田凌君がやる気出してるけど育つまでにはまだかかりそうですし。石原さとみちゃんは病棟業務の方が忙しそうだし、あのままじゃ救急のスタッフたちが悲鳴を上げますよ」
「代わりに俺たちが手伝いに行っても役に立たないしなぁ」
救急では医師の動きを見て、先回りして薬を用意していくことが求められる。おとぼけ薬剤師の俺たちは、そんな急を要する現場での勤務なんて絶対無理。殺気立ったスタッフに蹴り飛ばされて追い出されるのがオチだ。
「あーあ。こんなことなら、私も救急薬剤師の勉強をしておけば良かったなぁ」
イケメンの為ならばドラマの中まで応援に駆けつける気らしいので「やる気になってるなら今からでも、勉強してみたらいいんじゃないか?」と勧めてやったら、半瞬で彼女の化けの皮が剥がれた。
「う……そんなの、やるわけないじゃないですか。勉強し始めると寝ちゃう体質だってのに」
「でも大好きな田中圭君が喜んでくれるぞ。それに薬剤部長も。さとみちゃんは田中圭に『治療に専念してほしい』って訴えてたけど、疼痛コントロールしながらできるだけ働いてほしい、っていうのが部長の本音だろうからな」
それくらい、優秀な薬剤師は貴重な人材、ということ。
いいなぁ、俺もそういう存在になりたかったなぁ(だからと言ってやっぱり勉強する気にはなれないけど)
「だけど副腎癌か……俺なんて全然知らないけど、治療方法が無いのに治療してくれってさとみちゃんが願うのは残酷な話でもあるよな」
「でも! 諦めたらそこで試合終了ですよ」
「安西先生! 俺、これからも救急薬剤師をやりたいんです……って、今度はスラムダンクか!」
突然、話にアニメを混ぜられた俺がノリツッコミと共に声を荒げると、彼女は「だって、大好きなんですよ」と口を尖らせた。
「お前なぁ……黙って聞いてりゃ、何げにジャンプ系のアニメの話ばっかりじゃないか」
「少年誌は女子にとっても面白いんですよ。ちなみにスラムダンクで一番好きなのは、仙道×流川ですかね」
「ほぉ……少年誌でも楽しみ方は女子なんだな」
腐女子なセリフを吐く彼女に、俺がそれ以上何も言えなかったのは、言うまでもないことだった。
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