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第10話&最終回
「いやぁ、とうとうドラマも終わりましたね。とりあえず全てが片付いたという清々しい充足感に私は今満たされています」
「ちょっと待てぃ!!」
シルバーウィークのおかげで一週間の半分がお休みだった週の末日、うちの相方がしれっと感想を述べてきたから、俺は思わず噛みついてしまった。
「何を言ってるんだ。俺たちは最終回の一歩手前、第10話の話をまだしてないぞ」
「いやぁ、それはもういいんじゃないか、って天の声が降って来てまして」
「何が天の声だ。お前がなかなか10話を観ないから、先に最終回が放送されちゃっただけのことだろ……って、最終回はもう観たのか。まだ1日しか経ってないのに、今までのお前の視聴スピードから考えるとやけに早いな」
「最終回って言われると気になりまして、つい……でも、第10話ってわざわざ語るとこありました? 私たちは治験に関わるような大病院の薬剤師じゃないから、何を言ってるのかさっぱりでしたよね」
「う……」
「大体、田中圭君も自分が勤める病院に不治の病で入院しますかねぇ。周りが気を遣うのは目に見えてるじゃないですか。治療法が無くて治験薬に賭けたいなら、ちゃっちゃと大学病院とかに送り込んでもらえばよかったのに」
「そこはほら、ドラマだからさ」
ここで田中圭に大学病院へ転院されたら、ストーリーが進まない。さすがのさとみちゃんも、勤務先じゃない病院で治療に口出しするのは難しいだろう。
「でも、こんな治験を進めて大丈夫かな、と心配していたら結果的に、余命三ヶ月からの奇跡の生還ってアリなんですか?」
「おいこら。最終回観てるからって、あっさりと最後のオチを言う奴があるか」
俺は彼女の頭に拳骨を落としたが「だってぇ」と不貞腐れた顔で抗議してくる。
「あれだけの多臓器癌を患っておいて助かりました、っていう展開はさすがにご都合主義でしょ。ありえないですよ」
「そこはほら……ドラマだからさ」
なだめにかかる俺を、彼女は呆れたような目で見つめてきた。
「ふうん……今日は随分と心が広いんですねぇ」
「いやぁ、今回のドラマはイマイチ視聴率が取れなかったって聞いたから、この先薬剤師が主役のドラマってのはもう作ってくれないんだろうなって不安になってきてな。薬剤師の現場と違い過ぎる、なんてお堅いことばかり言わずに、エンターテイメントとしての柔軟性を重視するのもアリかと……」
「な、情けないセリフを……」
「でもほら、現実を知らしめすぎると白い目で見られるだろ。薬剤師の実態ってこんなだからさ」
今までに俺たちがここで語ってきた内容を振り返ると……うん、とても恥ずかしくなる。何度も言ってるけど、縁の下の力持ちな薬剤師はそもそもドラマ化に向かない職業なんだよな。
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