第1話

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第1話

 朝、調剤室に入ったら俺の相方が一人で妙なフラダンスを踊ってた。 「……まあ、この状況。ある程度は予想はしてたけどな」  しかし随分なテンションだな、おい。 「だって、コロナでロケが延期になってた薬剤師ドラマが昨日の夜、ようやく始まったんですよ。もう嬉しすぎて……これが踊らずにいられますか」 「さすがにそれは俺も観たぞ。さとみちゃん、可愛いからな」 「あんな可愛い薬剤師はドラマでしかありえないですよねぇ」  自分の方が可愛い薬剤師だと主張するのかと思いきや、そこはドラマ化を祝して一歩譲る気らしい。まぁ、こいつが譲ろうが譲るまいが、さとみちゃんの可愛さに変わりはねぇけど。 「まあ主役が可愛いすぎるって他にも、ドラマならではのツッコミどころは山盛りだったけどな」 「調剤済み印に日付がなかった!」 「あぁ俺もそれはかなり気になった。あんな名前だけの調剤済み印なら、ただの認め印で十分だよな」  薬袋には調剤者名とともに交付日の記載が義務付けられている。そのため調剤済み印の中には日付が入っているのが普通。でもドラマだから具体的な日付を出したくなかったんだろう。  もしかしたら薬袋に日付が既に印字されていたのを見落としただけかもしれないけど、それでもやっぱり調剤済み印に日付が無いのは不思議だ。 「それと新人薬剤師が生意気すぎませんか? 気に入らなければいつでも辞めますなんて上から目線なセリフを上司に向かってしょっぱなから言っちゃうような子は、さすがに歓迎されませんって」 「病院薬剤師は必要ですかって疑問があるなら、どうして病院に就職決めたんだよ、ってなるしな。薬の品目数が1500ってのも全然驚くレベルじゃないし、疑義照会で処方変更になるのが全国で一日4万件って言ったって、そのほとんどがドラマ中であった『ランソプラゾールを分3ってありえませんよね?』ってレベルの奴だもんな。その程度のことで目を見張るなんて、あの新人薬剤師、学生時代に病院実習を真面目にやってこなかったんじゃねぇの?」  ドラマだからこその現状説明のためのセリフだったのだろうが、違和感がものすごかった。まぁ、違和感覚えたのは全国の薬剤師だけだろうけど。
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