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『あれー? バレちゃったよ、さっきまで聴いてくれてたのかなぁ? この番号どうやって? あ、ちょっと』
電話の向こう側では、間違い無くDJヨルノと同じ声の人が何やら慌ただしくバタついていた。
俺は今起きているのが現実なのか夢なのかあやふやで、電話越しに聴こえる騒々しい音をただじっと、待てと言われた犬のように待ち続けた。
そうして1分ほどして、電話口に出たのはヨルノではなく鍵本だった。
『ごめんごめん、お待たせ〜』
「……どういうことっすか」
俺の声に、一瞬沈黙が広がる。しかしすぐにいつも通りの気の抜けた声が受話口から聴こえる。
『なんや、この声は天川くんかぁ。ゆみちゃんやと思ったのに〜』
鍵本の面倒そうなため息が漏れる。
「誤魔化さないで下さい。さっき電話に出たの、DJヨルノですよね? それに翔のメッセージも読まれてたし、先生は翔のラジオネームも知ってた。これ、意図してやったことなんじゃないですか? 隠さずに教えて下さい」
『いやや』
「はい?」
『だって天川くん、僕のこと嫌いやろ? 何で嫌われてる子に教えなあかんねん。悪いけど、僕そんなお人好しちゃうで』
「い、いや……それは、」
まるで、拗ねた子どものような言い草に、吹き出しそうだった。
子どもっぽくて、感情的で。
まるで──俺が鍵本にしている態度そのものだった。
「ごめんなさい、」
鍵本の馴れ馴れしくて、すぐ打ち解けてこようとする態度が昔から嫌いで、翔のことがなければ俺は正直、自分から鍵本に話しかけるなんてあり得なかった。
話してみれば、なんてことは無かった。
近づいてみれば、どうってことは無かった。
それなのに、素直に言葉にするのは、なんでこんなに難しいのだろうか。
「先生に、こんな時だけ頼っていつもは酷い態度してて……こんな、面倒な生徒、そりゃ嫌だと思います。だけど、俺も沙織も、どうしても、もう一度翔と会いたいんです。どうしても、ちゃんと会って話したいんです。だから、」
『なーんか、俺めっちゃ嫌な先生やん……肝心な時に生徒の青春邪魔してくる教頭的な? 教頭ちゃうけど』
すっと熱が落ち着いたような、鍵本の声はどことなくヨルノの声に似ていた。
名前のような、まるで夜の中に漂うような静かで深い神秘的な声。
「いや、そういう意味で言ったんじゃ……」
『なんか誤解してるみたいやから言うとくけど、僕が嫌やって言うたんはヨルノと有馬が繋がってんのバレたら困るからや。天川くん、誰にも言わんて、約束できるか?』
ごくりと、唾を飲み込む。
「約束、できます」
『ほな明日の昼休み、コンピュータールーム集合な』
そう言われて電話を切った。
ヨルノが読み上げた翔のメッセージが、いつまでも胸の中で響く。
会いたい。
会えるのなら、もう一度一緒に星を見たい。
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