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隣のクラスの沙織がわざわざ俺のクラスに顔を出すのは、まぁ、大体が同じ理由だ。
小学生の頃から通算すると、軽く100個は紛失したであろう俺の消しゴムを悪びれもせずにまた貸してくれだとか。十七歳女子が一日に消費するカロリー数を完全に無視した食事量を摂取しておきながら、放課後はクレープを食べに行かないか、だとか。
つまり、どうでも良い理由。
「聖、昨日の銀河ステーション聴いた?」
だけど今日は、どうでも良くない方の理由だ。
「当然。毎日アーカイブまで聴いてるっての」
「親子揃ってオタク〜」
「うるせー」
「じゃあさ、明日の流星群、どこで観測するか打ち合わせしようよ! ヨルノが21時頃からが極大だって言ってたし」
俺と沙織の唯一気の合う趣味。
それが天体観測だった。
こうして毎年のように流星群を観測をするようになったのは、間違いなく親の影響によるものだ。
熱狂的な天体マニアで、おおいぬ座VY星がどうだとか、毎年バレンタインには天体のチョコレートを母さんにねだったり、とにかく星のことになると夜が明けるほどに熱く語り出す俺の親父。
そしてそんな親父と沙織の父親が、学生の頃から天体観測をしていた親友でもある。
つまり俺たち二人は、星空オタクの父親達の助手(いや単なる荷物持ちか?)として物心ついた時から天体観測に付き合わされていたというわけだ。
あんな米粒みたいな光の点ひとつで、何を大の大人が騒いでいるんだろうと幼心に不思議に思ったけど。
井の中の蛙大海を知らず、都会の子ども星空を知らず、だ。
初めて覗いた望遠鏡越しに見えたのは、この世のものでは無かった。
まさに絵本の、あの銀河鉄道の夜のような、色とりどりの星や星雲が手の届きそうなほど近くにあって、そんな神秘的な世界に俺たちが魅了されるのに然程時間はかからなかった。
「あ、そうだ。駅前にオープンした福太楼のお好み焼き食べながら打ち合わせするってのはどう?」
「なんでお好み焼きなんだよ」
「だってあそこが本場の味だって、鍵本先生が」
「そんなの食ったら晩飯食えないだろ」
「え、食べるよ? だってお好み焼きっておやつじゃん」
そして。
「なぁ、沙織」
「なによ真剣な顔して」
「お前最近、手が豚足っぽくね?」
「バッ、」
そんな俺と沙織が中学で出会った天体観測仲間であり、親友の有馬翔が忽然と姿を消して、一年が経とうとしていた。
「バッキャローー!!」
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