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「なあ! 話あんだけど」
階段を降りきった先、廊下を歩くピンクのポロシャツ男の背中に声を投げる。
ピクリと肩を揺らして、鍵本がニヤけた顔で振り向いた。
「おぉ、珍しいやん、天川から話しかけるとか雪でも降るんとちゃうか? で、話ってのは禁断の恋の相談か? 場合によっちゃ有料やで?」
ひひっと鍵本がわざとらしい笑みを浮かべる。
「ちげーわ」
「なんや、おもんない奴やのぉ。進路相談とか真面目な話やったら放課後にしてや〜これから僕は保健室のゆみちゃんにデート申し込まなあかんのやから」
仕事しろ。詐欺師やろーめ。
「有馬のことだよ。連絡来たってほんとかよ?」
「あー、有馬ね〜。ま、元気にしてるんとちゃう?」
にへらと笑いながら、気怠そうに鍵本がポロシャツの襟首を触っている。
「なんだよそれ、もっと真面目に答えろよ!」
「そんなん言われてもなぁ、有馬から手紙が来ただけやし」
「手紙っていつ!? あいつの住所知ってんのかよ!」
「さぁ、いつやったかなぁ?」
のらりくらりと、人を試すような鍵本の会話に苛立ちが大きくなっていく。
どうみても真剣に答える気の無い鍵本の意図が全くわからない。
「先生、わざとやってるだろ!」
「いやぁ、わざともなにも、そもそも有馬本人に訊いたらすむ話やろ? お前ら中学からの友達やん。え、それともまさか、有馬の連絡先知らんとか……そんなさっぶいオチちゃうやろな」
ほんとに、なんでこいつはこうもデリカシーゼロなんだ。
「そうだよ……あいつは俺たちに連絡先すら教えずにいなくなったんだよ!」
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