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俺と沙織と翔。
いつも放課後に集まって話すことといえば、最新の天体望遠鏡が欲しいとか、接近中の彗星を観測したいとか。
高校には天文部が無いから、来年の文化祭はクラスの出し物としてプラネタリウムをやってみたいとか。
そんな、きっと頑張れば叶う。
すぐ先の未来の話ばかりで、俺はその未来の中から翔がいない姿なんて想像すら出来なかった。
「うわ、それ、あかんやつやん」
鍵本は相変わらず大袈裟な表情を作り、顔を引きつらせた。
「は? どういう意味だよ」
「君たちを愛してやまない僕に、そんな酷なこと言えるわけないやろ。ほら、もう忘れなさい。有馬はイカロスみたいに未来へ飛び立ったんや」
イカロスは堕ちたんだっての。
「あんた教師向いてないよ、マジで」
「そういう天川は、有馬の友達向いてないで」
先ほどとは明らかに違う目だった。
少し憐むような、何かを言いたそうな、そんな目。
「はあ?」
「お前友達やのに、なーんも分かっとらんのやな、なんで有馬が連絡先教えへんかったか。僕に訊く前によー考えてみ。僕が話せるんはそれだけや」
鍵本に話したのは、失敗だったかもしれない。
「どういう、ことだよ……」
「水槽の中のカムパネルラ」
鍵本に話したせいで、俺はこの日の授業がほとんど頭に入らなかった。
「え?」
「道玄坂45のニューシングル。水槽の中のカムパネルラ、聴いてみ。ええ歌やで」
水槽の中のカムパネルラ。
なんだそれ。
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