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♪心配しないで 笑ってるんだ
心配ないから 涙を拭いて
水槽の中から飛び出してキスしてよ
銀河の向こうでずっと待ってるから
星の光の下で抱きしめてよ♪
放課後、ダウンロードした道玄坂45の「水槽の中のカムパネルラ」を無限リピートしながら、俺は沙織に押し切られ福太楼に向かっている。
「どう? 何か手がかりありそう?」
「だめだ、さっぱり分からん。いや、そもそも鍵本の言うことを真に受ける俺もどうかしてた」
やたら明るいメロディに、宮沢賢治の銀河鉄道の夜のストーリーをパロディにしたその歌詞は、片思い応援ソングだった。
片思い。キス。抱きしめて。
そう、恋する乙女が口遊むにはちょうど良いその歌詞も、男が親友の男のことを考えながら口遊むと、違う意味になりかねない。
「やべ、鳥肌が」
「なんでよ、良い歌じゃん」
「いやいや、翔のこと思いながら聴く歌じゃねーだろ」
「もー、なに想像してんのよ。歌詞の場所が違うんじゃないの? ほら、このBメロの歌詞の部分とか」
沙織がスマホで表示した歌詞を指差しながら俺に差し出す。Bメロ。恋が進展しそうな内容。
「君との待ち合わせはいつも夜の中」
歌詞を読み上げて、そのフレーズがやたら耳に残った。
夜。待ち合わせ。
どこで?
いや、そもそも。
道玄坂45は俺たちに何の関係も無い。
歌詞の意味を考えても翔に繋がるとは思えない。
「だーめだ。わかんねー」
考えてあぐねてリピートを止める。
沙織が不満なのか唇をハコフグみたいに尖らせた。
「もう、名探偵天川聖はどこ行ったのよ」
「俺は体も頭脳もフツーの高校生なの」
「翔のダイイングメッセージかもしれないのに!」
「死んでねーだろが!」
とにかく、鍵本の意味深な言葉にほんの少しだけ希望を持った俺たちだったが、結局翔に繋がるものは何一つ出てこなかった。
翔とは、もう二度と会えないのかも知れない。漠然とそう思えてならなかった。
鍵本に連絡はしても、俺たちには音沙汰も無い。
その意味するところは、ひとつ。
翔が、「会いたく無い」と。
そう遠回しに言われているような気がして。
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