君待ちアステリズム

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昭和レトロなポータブルラジオは、幼馴染みの沙織(さおり)から貰った誕生日プレゼントだった。 アンティークな見た目とは対照に、Bluetooth内蔵でおまけにパッシブラジエーター搭載。 だけどスピーカーから繰り出される迫力のサウンドは音楽じゃない。 俺たちが中学一年の時からもう五年も聴き続けている、マニアックなAMチャンネル“銀河ステーション” チューニングにはコツがいるので、コーラの缶とよっちゃんイカ片手にサンダルをひっかけベランダへと足を伸ばす。 ダイヤルを回し、ノイズの途切れる場所で指を止める。ラジオを足元に置き、夜空を見上げた。 『──こんばんは、時刻は21時55分。月の輝くほんの狭間の5分間』 夜の帳が降りた八月の空は、煌々とした街の明かりで星なんて殆ど見えない。だけど見上げるこの空の遥か何億光年先では、等しく星が溢れている。 『今夜も満点の星空とともに、DJヨルノがお送りする銀河ステーション。リスナーの皆さまの小さな願いを乗せて、星降る夜を出発です───』 五年前から変わらないラジオDJの落ち着いた低音がベランダに響く。 緋色に輝く一等星が南の空にぼんやりと見えた。あれだ、宮沢賢治の銀河鉄道の夜。 確かあの話にも、赤い星が出ていた。さそりの心臓だ。 ────さそりって、ザリガニに似てるよね 随分と昔にそんな下らないことを言った親友を思い出しながらコーラを喉に流し込む。炭酸が喉の奥に僅かな苦味をもたらした。 思い出を邪魔するように、ラジオからは耳障りなノイズが絡み、思わずため息混じりに舌打ちする。 「(かける)のやつ……カムパネルラみたいに、急にいなくなりやがって」
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