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その後
事件があった日から1カ月後。
もうすぐ夏休みだった。初夏なのに陽射しは強く、教室から教室へ移動するのにも一苦労である。
近道する為に渡り廊下を飛び越えて、裏道から教室へと向かった。すると、教室の前で野上君に偶然出会った。
「あれ?妙子も、この授業受けるの?」
野上君が、不思議そうな顔をして教室の前に立っている。
「そうよ」
「今まで見かけなかったけど、この授業、妙子も受けてたんだな」
実はこの授業、かなり久しぶりに受けるのよね。単位足りなくてもレポート頑張れば何とかなるって噂で聞いて、休んじゃったわ。
野上君とは、この授業を一緒に受けるのは初めてかもしれない・・・私は少し曖昧に笑った。
「それより、席に着こう。移動だけで、ヘトヘトよ」
「そうだな」
疑問に思わないし、何か当然の様に私の後ついてくるし・・・でもまあ、同じサークルだし、従業員だし・・・よしとするか。
入口で立ち話をしていると、教室で私達を執拗に見つめてくる女子達の視線が気になった。野上君のファンだろうか?・・・そんな事を考えていると、教室を出ていこうとしてた人と、ぶつかりそうになって避けた・・・避けたのに、何故かぶつかりそうになった人は、こちらを睨んでいた。
「やっぱり、お前か。安倍晴明」
「えっ」
私の方が、反応してしまった。野上君は、振り返ると無言で声を発した人物を見ていた。
「お前は・・・賀茂光栄?」
「・・・正解だ。相変わらず、遠くにいても分かりやすい奴だね」
こちらを見ている男性は、背丈が160センチの私と変わらない背の高さだったものの、不のオーラを感じていた。顔はイケメンなんだけれど、良くない感じがする。
「妖狐、お前も転生していたのか。晴明の人間嫌いは、少しは直ったか?」
彼は私を見ると、嘲る様に笑った。野上君が私を庇うように、一歩前へ出る。
「こいつは、関係ない。妖狐だった頃の記憶はないんだ」
「そうか」
「・・・何か用なのか?」
「安倍晴明・・・」
「野上だ。野上大介」
「野上・・・1000年前の恨み、晴らさせてもらう。覚えておけ」
そう言いすてると、イケメン男子は教室を去って行った。
「野上君、時間よ。授業が始まるわ」
私達は急いで後ろの席へ着いたが、まだ先生が来ていなかったので、小声でさっきの事を聞いてみる。
「野上君・・・さっきの人、知ってるの?」
「ああ。前世で俺の師匠の・・・孫だった人なんだ。昔は、あんな態度では無かったはずだ。仕事だって何回か一緒にやったけど、問題なかったはず。何だってあんなこと・・・訳が分からないよ」
野上君が分からないのであれば、私には余計に分からないだろう。
「さっきの・・・賀茂光栄さん・・・だっけ?本人で合ってるの?転生してるんだったら、誰かと間違えてるんじゃない?」
「いや、それはない。あの面差し、間違えようがないよ・・・前世とそっくりなんだ。だけど、オーラがおかしかった。何というか、おどろおどろしいというか・・・」
野上君は、言いづらそうに話をしていた。きっと前世では上手く付き合えてたのに、再会した途端、憎まれ口を叩かれて、恨みを買っているなんて・・・いい気分はしないだろう。
なんて声を掛けてあげればいいのか悩んでいるうちに、先生がやって来て授業が始まっていた。
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