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第一話
「まるで神隠しねぇ」
そう呟いたのは、同じサークルに所属する友達の田川ミキだった。
授業を終えて、喫茶レーベルに着いたのは、午後六時を少し過ぎていた。私たちの通う埼玉県春日部市にある玉越大学から、電車で約二時間。そこから歩いて十五分の場所に、その喫茶店はあった。
閑静な住宅街の中に、ひっそりと佇むレンガ造り。その建物は、西洋の建物を彷彿とさせた。お店を取り囲むようにしてある雑草や蔦が異様な雰囲気を醸し出している。
ここで、依頼人の赤川珠美と会う予定だった。依頼内容は、先日から連絡が取れなくなっている友人を探して欲しいというものである。私達二人は、ミステリーサークルに所属しながら、密かに探偵活動を行っていた。
入口はガラス張りになっているものの、外から中は、あまり見えない仕様になっている。アンティーク調の扉を開けると、中から店員と思われる女性が出て来た。
「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」
ベテランの風格を漂わせる店員に慣れた動作で席まで案内される。店内は空いており、奥の席へ案内される。
「あの、二名ですけど後から一人来ます」
「かしこまりました。先に注文されますか?」
私とミキは顔を見合わせると頷いた。アイスコーヒーを頼むと、店内を見回した。コーヒー専門店らしく、世界各国のコーヒー豆が、所狭しと並んでいる。メニューには、いろんな種類のコーヒーが書かれており、酸味があるとかコクがあるとか、後味スッキリとか書かれていたが、ミルクが無いと飲めない私には、あまり参考にならなかった。それもあり、表紙にある「オススメ!! 水出しアイスコーヒー」を頼んだのだった。
ミキは、もともと水出しアイスコーヒーに興味があったらしく、近くに置いてある水出しアイスコーヒー用の抽出機械を、うっとりと眺めていた。
店員の制服は、準メイド風、準執事風になっているが、あまり気にならない。客もコーヒーを求めてやって来ている感じの客ばかりであった。
しばらくしてアイスコーヒーが運ばれてくると、近くの席にいたおじいさんに話しかけられる。
「アイスコーヒーは、まずブラックでストローを使わずに、一口飲んでみなさい。美味しいから」
言われた通りにしてみれば、何だかいつもと違い、美味しい気がした。ブラックでも飲める苦さだ。ミキも満足げに目を細めていた。
「ありがとう、おじいさん。美味しいです」
ミキがそう言うと、おじいさんは満足そうに頷いて席へ戻っていった。おじいさんは、カウンターで新聞を広げて読んでいた。常連客だろうか──そう思っていると、携帯が鳴った。
「ミキ、赤川さんからメール。講義が長引いて来れなくなったみたい。これ飲んだら出ようか?」
そう言って、ブラックで飲んでいたコーヒーにミルクを入れると一気にストローで飲み干した。私には、ミルクコーヒーが、まだまだ合っている気がする。
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