第一話

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 そのまま帰ろうと思っていたが、せっかくここまで来たのだからと思い直し、お店が暇そうな時間を見計らって、店員の人に行方不明になっている関根君のことについて聞いてみた。さっきのメールに、関根君のバイト先がこの喫茶店なので、ここで待ち合わせる事にしたと書いてあったのだ。  学生かと思われた彼女は、話してみれば三十代くらいの落ち着きがあり、こちらの事情を聞いて、熱心に耳を傾けてくれた。 「関根君は、小さい頃から知ってるけど、真面目でいい子だから、急に何日も休んで心配してたんです」  さらに、三日前にシフトに入っていた他の人に話を聞くことも出来た。 「えーと、私と入れ違いで三日前の夕方は、五時~夜九時までバイトをしてたのは知っているのですが、その後は来てませんね」  聞けば三日前の閉店時は、店長と関根祐介の二人だけだったという。店長の所在を訪ねると不明ということだった。 「店長は、もともと隣の家に住んでいたんですけど、個人経営のお店ということもあってか、ほとんどお店にはいないんです」 「では、今どちらに?」 「たぶん、良質のコーヒー豆を求めて南アフリカか何処かに行っていると思います」  その言葉を聞いて、ミキと私は唖然としてしまった。そうか、だからお店の中に世界各国のコーヒー豆が────いや、これだけあれば充分ではないか。一年中、コーヒーを求めて旅をしている? そんな馬鹿な。ブルーマウンテンがあればいいのではないか? 自問自答していると、話をしていたお店の人が苦笑しながら、こちらを見ていた。 「関根君、確かこの近くに住んでるはずです。依頼された方に住所を聞いてみて、行ってみてはいかがですか?」  そう言って提案してくれた彼女は、小さく微笑むと心配そうに目を細めて「よろしくお願いします」と頭を下げたのだった。  赤川さんからの連絡ノートに関根祐介の住所が書いてあったのを思い出し、ライソを開くと、スマホのマップでナビを見ながら、自宅へと向かった。  暗くなってきたと思ったら、雨が降りそうな空模様だった。スマホのマップ画面に自宅へは徒歩7分という文字が点滅していた。雨が降る前に到着したいと足を早めたが、ふと脇道に目をやると、住宅街の塀と塀の間に小さな祠があるのを見つけた。街中で見かける小さい祠よりも、更に一回り小さな祠で、気づかずに通り過ぎてしまいそうな小ささであった。身体をそちらへ向け、姿勢を正すと、素早く手を合わせる。塀の奥には公園らしきものが広がっているのが見えたが、雑草が延びて荒れ果てていた。 「妙子、どうしたの?」 「なんでもない」  関根祐介の自宅はトタン屋根の木造一階建てだった。近くまで行って、玄関先の呼び鈴を鳴らしてみたが誰も出ない。 「ミキ、ちょっと待って。呼び鈴壊れてるかも」  耳を澄ましてみれば、呼び鈴を鳴らしても、中で鳴っている音がしない。私とミキは、目を合わせると、そっと玄関の引き戸に手を掛けた。スルスルと簡単に開いた引き戸の中へ入ると、声を掛けた。 「関根さーん、いらっしゃいますか?」  しばらくすると、声が聞こえて誰かしらいたことにホッと息をつく。部屋の中からは白髪のおばあさんが出てきた。 「あら、祐ちゃんのお友達? ごめんねえ、ブザーが壊れてて。今、お茶を入れますから、上がってちょうだい」 「いえ、すぐに帰りますからお構いなく。少しお聞きしたいことがあるのですが」 「でも、こんなところで立ち話もなんですから、中へどうぞ。私も、少し膝を痛めてますので、そうしていただけると助かります」 「・・・・・・分かりました。それでは、お邪魔させていただきます」  初対面の私たちを、こころよく迎え入れてくれたおばあさんは、台所へ行くと湯を沸かし始めた。居間のソファーに腰掛けた私達へ、時折話し掛けながらお茶を入れてくれる。
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