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「珠美ちゃんから、聞いてますよ。数々の事件を解決した探偵さん、なんですって?」
数々の事件なんて、大袈裟だ。私は目の前に困っている人がいたから、助けただけに過ぎない。
「いえ、たいしたことはありません。ですが、お孫さんの祐介さんは、全力で探させていただきたいと思っております」
「ありがとう」
おばあさんは、言葉にならない言葉を飲み込んだようだった。
「祐介さんは、三日前から帰っていないんですよね?」
「ええ。バイトが終わってから帰っていないみたいなの。いつも帰ってくるまでは、私も起きているようにしているから、間違いないと思うわ」
「珠美さんも、三日前の夕方に今度遊びに行くという約束をしてから、連絡がつかなくなったと言ってました。つまり、バイト先の仕事が終わった夜九時から家に帰るまでの間に何かが起きた可能性が高いと思われます。三日前は、何時頃まで起きていらっしゃいましたか?」
「一日起きていたわ。と言っても、時々ウトウトしていたから、あんまりハッキリしたことは言えないの」
「と言うことは、もしかしたら夜中戻って、朝早く出て行った可能性もあると言うことですか?」
「ええ、そうかもしれない。だから、ハッキリしたことは何も言えないの。ごめんなさい。でも、無断外泊なんてしたこと無い子だから、絶対に困ったことに巻き込まれていると思うの。警察は『事件性が無い』と言って捜査してくれないし。あなた達が来てくれて本当に良かったわ」
藁にもすがる想いだったのだろう。感情が昂ったのか、おばあさんは話しながら泣いていた。出してくれた日本茶を啜りながら、何と言っていいか分からずに、ただ私達は、おばあさんが泣きやむのを待っていた。
「ごめんなさい。すっかり遅くなってしまったわねぇ」
落ち着きを取り戻したおばあさんは、そう言うと私達を見送りに玄関先まで来てくれた。
「あら、雨が降ってきたのかしら? ビニール傘しかないけれど、良かったら持って行ってちょうだい。物置に十本位たまってるの。返さなくても大丈夫よ」
「いえ、そんな訳には──また返しに来ます。そう言えば、鍵は掛けられないのですか?」
「ブザーが壊れてて、誰かが来ても分からないから、開けっ放しにしているのよ。盗まれるようなものは何もないし。この辺りは、みんな顔なじみだからねぇ」
「最近は、物騒な事件も多いでし、鍵はお掛けになった方がいいですよ」
「わかったわ。ありがとう。今夜から、掛けて寝るわ」
傘を借りた私達は、もと来た道を戻って行った。帰り道、小さな祠の前を通りかかったとき、空き地に人影を見た気がして、立ち止まった。暗くて良く見えなかったが、空き地の奥へ走り去る何かがいた気がした。
「猫かしら?」
立ち止まった私に気がついたミキが、振り返って言った。
「妙子、どうかしたの?」
「ううん。何でもないの。誰か居た気がして・・・・・・」
「ちょっとぉ、怖いこと言わないでよ。それにしても、バイト先から家に帰る途中に姿を消すなんて、まるで神隠しねぇ」
雨足が強くなってきて、そこからは駅への道を急いで帰った。空を見上げると、どんよりとした黒い雲が、どこまでもどこまでも広がっているのが見えていた。
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