第二話

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 赤川さんが大学に来たのは、それから一週間後のことだった。講義と講義の合間を見つけて、赤川さんを呼び出した私達は、食堂の隅にあるテーブル席に座って、赤川さんが来るのを待っていた。購入したセルフサービスのコーヒーが(ぬる)くなった頃、赤川さんはやって来た。 「あの・・・・・・。今回は、お願いをしておいて、急にやめて欲しいなんて、勝手なことを言って本当にすみませんでした。かかった費用は、お支払いしますので、今回の件は無かったことにしてもらえませんか?」 「私達、関根さんのおばあさんと約束したんです。お孫さんを見つけますって。お金がどうとかじゃないんです。関根さんは、見つかったんですか?」 「いいえ。でも、時間の問題だと思うんです」 「どういうことですか?」 「・・・・・・」 「話してくれなければ、何も分かりません。このままにして、何か良い結果につながるとは思えないですし、お力になると約束した以上、私達も責任を感じています」 「・・・・・・」 「秘密は守ります。例え、警察相手であっても」  そう言うと、赤川さんは躊躇いながらも話始めた。 「・・・・・・祐介はバイト先の先輩の彼氏に、『いいバイトがある』って言われて、麻薬とは知らずに運び屋をやっていたみたいなんです」 「?!」 「気づいた時にはもう遅くて──抜けられなくなっていたみたいなんです。『自首すれば命の保証はない』と、脅されてやっていたと書いてありました」 「書いてあった? 赤川さん、その情報はどこから?」 「この間、桜川さんと待ち合わせした日、講義が終わってお店に向かおうとしたら、鞄の中に手紙が入っていたんです。『ばあちゃんに迷惑が掛かるといけないから、探さないで欲しい』とも書いてありました」 「今からでも遅くありません。自首すれば、重くない罪で済むと思われます。説得は出来ないんでしょうか?」 「本人と連絡する手段がありません。それに、脅されていると書いてありましたが、絶対に戻れないとも書いてありました。海外で流行している、尿検査で反応が出にくいトローチ型の麻薬みたいです。だから、組織としても捕まらずに、上手く逃げおおせているのだとか。証拠が無いから捕まらないって言ってたのに、祐介の実家に警察が来たんです。もう、どうしようもありません。おしまいです」  彼女の話を聞いて腑に落ちないこともあったが、まずは関根さんを見つけなければと思った。 「関根さんは、大切な人の命を盾にされ脅されていた可能性もあると思われます。『絶対に戻れない』と言っていたのでしょう?」 「・・・・・・」 「もし、仮に実家から何か見つかったとすれば、組織の犯行だと証明出来なくても、祐介さんが代わりに逮捕されるでしょう。警察も必死に捜すでしょうから、きっと見つかります。もう少し早く話してくだされば、何か出来たかもしれないと思うと、そこは残念で仕方がありませんが・・・・・・」 「ごめんなさい。私、祐介が心配で・・・・・・。どうすれば、最善なのか考えても考えても、分かりませんでした。例え、知らずに麻薬に関わっていたとしても奨学金特待生の資格は剥奪されるでしょう。そうすれば、祐介は大学に通うのが難しくなる。事件が明るみになれば、祐介に選択肢は無かったのです」 「警察が動き出した今、私達に出来ることは少ないかも知れません。ですが、関根さんが見つかって、罪を償える道を選べる日が来ることを、私は願っています」  赤川さんは泣き出してしまった。私達は何かを言うことも出来ないまま、学食を後にしたのだった。
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