プロローグ

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プロローグ

この春、大学2年生になった私、桜川妙子は、ひょんなことから探偵事務所を立ち上げることになった。探偵事務所といっても、一人で立ち上げた個人的な会社である。 会社経営ともなれば、授業を受けている暇もないと思い、退学しようかと迷ったけれど、そこは親に全力で止められた。 「留年してもいいから退学はしないで欲しい」と、懇願されたのだ。 普通の親だったら、そんな非常識な事は言わないだろう。うちの親は、はっきり言って普通じゃない。親に限らず、母方の親戚がみんな変わり者だ。会社を経営していたり、経営に携わっていたりする。そのせいかは分からないけど、とにかく変わり者が多い。 「やりたいことを、やりなさい」 小さい頃から、そう言われて育ってきた。そのせいか、好奇心旺盛で、どんなことにも首を突っ込む性格になっていた。隣人の旦那さんの浮気相手を突き止めた時は、さすがの母も笑みが引きつっていたけれど、笑って許されてしまった。 『なんて甘い親なんだろう』 子供ながらも、親に対していつもそう思っていた。もっと、こうすればいいのに。とか、私がやらなきゃ、この人達は何もしないんだから。と思っていた。でも、最近になってから、気づいた。『やれない』じゃなくて『やらない』んだってことに。何て言うか、度量が桁外れに違う。私みたいな小心者じゃ、耐えられない会社の修羅場?みたいなのをたくさん経験してきたんだなって、最近は肌で感じている。 まあ、そんな親の影響もあって好き勝手やってるわけだけど、私には『田川ミキ』という同じサークルでに入っている友達がいる。 ミキとは一年生の時に、同じミステリー研究会のサークルに入ったのがきっかけで、大学に入学して間もない頃、まだ部屋を探していたもの同士、意気投合して少し広めのマンションを一緒に借りてルームシェアをすることになった。はじめは、他人と暮らせるのか不安だったけど、ミキは人に合わせるのが上手くて、本当に助かることが多かった。家事の分担とか、共同スペースの使い方とか・・・取り決めも多かったけれど、ミキのお陰で快適なキャンパスライフを送っていた。 大学は、人が多いせいか、小さな事件も多く、いつの間にかミステリー研究会=探偵サークルになっていた。事件に首を突っ込んだ私も悪かったと思うけど、依頼内容のほとんどが「犬探し」や「猫探し」あるいは「彼氏や彼女の浮気調査」だった。ある意味、探偵らしいっちゃ探偵らしい。 そんなキャンパスライフを送りながら、日々勉強に励んでいた。同居人のミキは、ひかえめな性格なのに顔は広く、事件の依頼は絶えることがなかった。一時は大学中の事件が私達の所に集まって来てるんじゃないかって思える程、多忙な日々を過ごしていた。 ミキに言わせれば「妙子の観察力と、着眼点は他の人と違って鋭さがある」ということで、ミキの宣伝もあって、あっという間に大学中に私達の噂が広まったのだった。反対にサークルの先輩達は、地球外生命体を呼ぶのに忙しいらしく、私達とは、日中あまり顔を合わせることは、無くなっていったんだけどね。 そんな時、大学で起こった殺人事件を、警察よりも、先に解決してしまい、私の知名度は一気に跳ね上がった。 一度に解決出来ない量の依頼が、大学内外から殺到して・・・結局のところ、サークル活動は辞めにして会社を創ることにしたのだ。情報化社会って、本当に怖い。噂が広がるのが、こんなに早いなんて思ってもみなかった。
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