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 彼はただ私のそばにいた。  肩も抱かない。背中も頭も撫でない。  ただ黙って、私の隣に。  そして唐突に、声を出した。 「あっ流れ星」 「えっ」  思わず、顔を上げる。 「願い事するヒマもねえな」  ぽかんと上を見たまま呟く。  確かに彼は見たのだろう。  えー、と私は気が抜けたように笑った。  顔の筋肉を動かすと、泣き腫らした目も痛い。  ……けど今日初めて、私は笑ったかもしれない。  願い事か、と考える。  非常階段のジグザグに、夜空が切り取られている。  空というより破れ目のようだ。  手のひらに収まりそうなほど小さいのに、手の届くものは一つも無い。  見上げていると、吸い込まれていきそうな気がした。   私達の頭上に降り注いでほしい、と思った。  流星の雨。  大気圏を突破してなお燃え続ける彗星。  それってもう隕石じゃん。  できるだけ鮮明にイメージし、私は目を閉じる。  少し眠くなってきたかもしれない。  きっともうすぐ日付が変わる。 (了)
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