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13
「もう行く」
ふらりと私は立ち上がった。
打ち棄てようと思った。川がいい。
目蓋に焼き付いた、光るナイキのマークに乗って。
踏み出したその時、突然膝に冷たいものが当たった。
ひゃっと叫んで、スカートの裾を払う。
蛙か何かだと思ったけど、違った。
マウンテンデューの缶が、押し当てられていた。
「返すよ」
無表情で彼は言う。
私は脱力し、ため息をついた。
「要らない。私炭酸飲めない」
ゆっくりと首を振って、違う、と彼は笑う。
「お前も、ボコられてんのな」
赤目の充血が、私の視界にまで染み入った。
息ができない。
見抜かれていた。
隠していたのに。裸を見られるより屈辱的だ。
誰にも知られたくなかった。
世界中の、誰にも。
「ごめん。オレ、暴力にはビンカンだから」
瞬間、痛みが舞い戻った。
殴られた頬。引き摺り回された頭。赤黒く腫れた膝。
痛みの地層。身体の全部。
痛くないわけがないんだ。
たいしたことのない傷なんて一つも無い。
打ちのめされたのは、身体だけじゃない。
ヒリつく頬に、熱いものが流れ落ちた。
全然大丈夫じゃないのに。
次から次へと。
こんなにもつかえが取れるのはなぜ。
くずおれ、そのまま嗚咽した。
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