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8
バタバタとしまりのない足音が後ろから聞こえて、浅く息を呑んだ。
間合いを耳で計り、ゆっくりと振り返る。
ツーブロックと金髪。
いかにもな二人組が、身体を揺らしながら歩いてきた。
立ち止まり、メンチを切るのとは違う検分の目で、頭から爪先まで私を見る。
視線を注がれるがまま硬直し、この二人もやはり知らないと思いながら、私は不良という存在には明確な共通項があるなと、妙に冷めた頭で考えていた。
学校に来なくなって随分経つあの子たちを思い出す。
公園で煙草を吸いながらタムロする、立ったり座ったりの姿勢。
視線、手足、首の角度。揺れ。
全ての度合いが動物めいた、言語以前のコミュニケーション。
ツーブロがジャラリとネックレスの音を立てて、スニーカーを拾い上げた。
「これ履いてたヤツどこ行った?」
簡潔に答える以外の選択肢をなぎ払う口調。
私は唇を結び、靴が行ったはずの方向を視線で示した。
「何で靴だけあんだろ、おかしくね」
「……片方ずつ脱げて、そのまま走って行った」
脱いでと脱げては違う。
でも不思議とウソを言っているつもりは無かった。
「つーかでけぇなコレ。チビのくせによ」
あれっ、ともう一人の方が私の顔をまじまじと見た。
「てかオナ小じゃね? 6年1組だったよね? 何してんの? てか家向こうじゃね?」
覚えてない。覚えてたとしても、風体が変わりすぎている。
金髪。両耳にピアス。
「……塾の帰りだから」
「マジメじゃ~ん」
ツーブロが丸太みたいな腕を肩に回してきて、私は身体を強張らせた。
首に当たる皮膚の生暖かさに戦慄する。
やめとけよ、と金髪が制する。冷めた目をしていた。
「ま、このへんブッソーだから早く帰った方がいいよ。じゃね」
物騒。紙風船みたいに放たれた単語が、重みを増した。
去り際に「じゃあね~」とツーブロが腰を卑猥に動かしてギャハハと笑い、私は皮膚が凍り付いた。
唇を噛み締める。
スマホを手に取る暇も無かった。
見逃されただけだ。顔も名前も思い出せない不良のおかげで。
二人の風下は、むせるほど甘い匂いがした。
知らない草のような。お香のような。
深く吸い込むと目眩がしそうで、必死に呼吸を鎮めた。
金髪はもう片方のスニーカーを乱暴に拾い上げ、歩きながら電話を掛けた。
あー、エスの金、持ち逃げっす。や、駅前の方行ったぽいす。じゃ南口で。
ゲホゲホ、と何度か咳をしていた。
声が聞こえなくなっても、遠ざかる咳の音は耳に届いた。
やがて橋の方へと消えた。
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