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 バタバタとしまりのない足音が後ろから聞こえて、浅く息を呑んだ。  間合いを耳で計り、ゆっくりと振り返る。  ツーブロックと金髪。  いかにもな二人組が、身体を揺らしながら歩いてきた。  立ち止まり、メンチを切るのとは違う検分の目で、頭から爪先まで私を見る。  視線を注がれるがまま硬直し、この二人もやはり知らないと思いながら、私は不良という存在には明確な共通項があるなと、妙に冷めた頭で考えていた。  学校に来なくなって随分経つあの子たちを思い出す。  公園で煙草を吸いながらタムロする、立ったり座ったりの姿勢。  視線、手足、首の角度。揺れ。  全ての度合いが動物めいた、言語以前のコミュニケーション。  ツーブロがジャラリとネックレスの音を立てて、スニーカーを拾い上げた。  「これ履いてたヤツどこ行った?」  簡潔に答える以外の選択肢をなぎ払う口調。  私は唇を結び、靴が行ったはずの方向を視線で示した。 「何で靴だけあんだろ、おかしくね」 「……片方ずつ脱げて、そのまま走って行った」  脱いでと脱げては違う。  でも不思議とウソを言っているつもりは無かった。 「つーかでけぇなコレ。チビのくせによ」  あれっ、ともう一人の方が私の顔をまじまじと見た。 「てかオナ小じゃね? 6年1組だったよね? 何してんの? てか家向こうじゃね?」  覚えてない。覚えてたとしても、風体が変わりすぎている。  金髪。両耳にピアス。 「……塾の帰りだから」 「マジメじゃ~ん」  ツーブロが丸太みたいな腕を肩に回してきて、私は身体を強張らせた。  首に当たる皮膚の生暖かさに戦慄する。  やめとけよ、と金髪が制する。冷めた目をしていた。 「ま、このへんブッソーだから早く帰った方がいいよ。じゃね」  物騒。紙風船みたいに放たれた単語が、重みを増した。  去り際に「じゃあね~」とツーブロが腰を卑猥に動かしてギャハハと笑い、私は皮膚が凍り付いた。  唇を噛み締める。  スマホを手に取る暇も無かった。  見逃されただけだ。顔も名前も思い出せない不良のおかげで。  二人の風下は、むせるほど甘い匂いがした。  知らない草のような。お香のような。  深く吸い込むと目眩がしそうで、必死に呼吸を鎮めた。  金髪はもう片方のスニーカーを乱暴に拾い上げ、歩きながら電話を掛けた。  あー、エスの金、持ち逃げっす。や、駅前の方行ったぽいす。じゃ南口で。  ゲホゲホ、と何度か咳をしていた。  声が聞こえなくなっても、遠ざかる咳の音は耳に届いた。  やがて橋の方へと消えた。
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