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「はぁーーーー」
朝から、大きなため息をつく。
せっかくの花見の季節に、朝から降り続く雨。今日の雨で、この桜も散ってしまうのだろうか。
電車ではしゃぐ、同年代の大学生。
「うるせぇ……」
思わず、悪態が漏れる。
口には出さない。心の中で。
呑気な大学生に、腹が立つ。
呑気なことに腹を立てているのか、自分と同じカテゴリーである大学生に腹を立てているのか。 いや、どれでもないことくらい、わかっている。
これは、ただの八つ当たり。
「お兄さん、ちょっと話し、ええですか?」
20歳にもう直ぐなろうとしていた頃、横浜のとある街で声をかけられた。一応ジャケットを着ているが、社会人としてはラフすぎるその格好に、そして、横浜の地には少し馴染まない関西のイントネーションに、一瞬眉をひそめた。
「芸能とか、興味あります?」
「いや、ないですけど」
芸能なんて、かけ離れた世界だと、思っていた。
昔から、『雰囲気はイケメン』と、よく言われていた。つまり、『王道のイケメン』ではない。背は、173センチ。男として、困りはしないが高い方ではない。
なぜ、芸能の世界とやらの人に声をかけられたのか、全くもって意味がわからなかった。
「君、大学生?」
「まぁ……はい」
「モデル、やらへん?男性モンの、モデル。下着モデルなんやけど……」
モデルなんて、もっと背の高い、スタイルの良い奴がなるものだろう。素直に、そう思った。
「いやいや、ないです」
「君、ええと思うんですよ」
「すいません、急いでるんで」
ありえない。
騙されない。
こうやって、変な世界に引きずりこまれていくんだ。俺は、騙されない。
なぜそう思ったのかはわからない。
でも、ホイホイついて行く程アホではないし、警戒心はあった。
そして、そう思ったその夜、湿気に包まれた不快感と気怠さと、言いようのない心のザワつきを払拭するように、俺は、AVを見て溜まった欲を、抜いた。
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