童貞 友に会えず女と会い、多元世界を認識する の語(こと)

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童貞 友に会えず女と会い、多元世界を認識する の語(こと)

6 「ほらぁ危ないよ、エースのフォワードくん」 そこに立っていたのは、ももりなだった。 「ももりな」 無意識に雑似の口から言葉が出る。 「ったく私がいなかったら大惨事よ、ふらふらグラウンドをほっつき歩いてどうしたの?サッカーが恋しくなったの?そうねぇ、無理ないかもね」 ちょっと髪型の面影が違うがそこに立つのは紛れもなくももりなだった。よりボーイッシュで短めの髪になった彼女は今日はやけに馴れ馴れしい。が正直こんな彼女も嫌いではない。 「ももりな、教えてくれないか。部員の奴らがいないんだ。公式試合前だというのに誰もサッカーをしてないんだよ」 それを聞いたももりなは丸で患者か何かを世話するような憐れんだ目で雑似を見るとそっと側に寄った。雑似のシャツの襟元を優しく撫でるように触ると襟の崩れた形を直す。 「そっかぁ・・・誰もサッカーやってないのかぁ。それは困ったネー」 雑似の目をのぞき込むように見る、それは意識の奥底を探る医者か先生のような目つきだった。 「なあ教えてくれ、なんでだ?アキラもいないし、俺もう・・。」 「アキラって?雑似くんにそんな知り合いいたっけ」 「えっ、アキラだよアキラ。あの凛々しくも頼もしい俺の相棒!センターフォワードの俺にいつも絶妙なカットパスをいれてくれるあのサッカー部を支える全能プレイヤーにして有能アシストである彼のことさ」 ももりなはだまったままこっちを見ている。 「ももりなだって何度も見てるだろ。あのイケメン、憎めないあいつ。去年の修学旅行だって放射線値がいつもより高いのがわかったのも、彼が技研に勤める親父さんの禁制品、道具(ガイガー)をこっそり持ってきたからわかったんじゃないか、俺たちはあれで命拾いしたんだよ。忘れたの?」 「修学旅行?・・そんなことあったっけ?」 どうも話が噛み合わないがともかく雑似はサッカー部のみんなをどこかで見かけなかったか改めてこのカモシカのような女に聞いた。  「雑似くん。ショックなのはわかったけどいい加減目を覚まして。サッカー部はなくなるんでしょ。それにあなたはシュートがいつも決められないフォワードだったじゃない。しょっちゅう部内でいい相棒がいない、息の合う奴がいないと嘆いていたじゃない。アキラなんていないのよ」  「なくなった、いない、なにそれ」  「だから試合で1得点も取れないことに嫌気がさしてみんなやめていったじゃない。この廃部の瀬戸際まで残っていたのは雑似くんと数人の新人だけだったでしょ。そのなかにアキラなんて人いなかったわ」  雑似の精神状態を心配して、ももりなは部活を早上がりするから今日は一緒に帰ろうと言ってそのまま部室のある更衣練に消えていった。  「疲れてるんだよ雑似くんは。部活が存続瀬戸際だったのが続いたこととか進学の問題とかいろいろあったでしょ、こんな日は家に早く帰って落ち着くといいよ」  そういってももりなは帰宅途中の自動販売機で買った緑茶を雑似に差し出した。  「ももりな、俺はもうだめかもしれん」  力無げに雑似はつぶやいた。ももりなはお茶の王冠を開けると飲むように雑似をうながす。そのままそれを一口二口飲んだ雑似は吐き出しそうな顔をして言った。  「にっが!なにこれ緑茶のストレートかよ、すげえな砂糖入ってないの?」  「砂糖?緑茶に砂糖なんか入ってるわけないでしょ、紅茶じゃないよそれ」  「ああ完全におかしいのかな俺。八王子行きも時間の問題だ・・ああ。」  「八王子になにか用があるの」  「米施(べーし)だよ。米国施政局、検束隊、八王子強制収容キャンプ行。もしかしたら茅野キャンプまで連行されるかもしれない、そうなったらもうだめだ」  「・・何を訳の分からないこと・・雑似くん、早く家に帰って休もうね。」   アキラというわが盟友が消滅して以来の数日間、なんとなく感じていたこの世界への違和感がとうとう説明がつかない現実となって雑似の脳内に現出した。  ももりなや周囲の者の話を総合すると、この日本にはUGCA(米国施政局)なるものは存在しないらしい。日本は戦後講和してそれほどひどい状況になってない。この2点に雑似は大層驚いた。しかし確認しようにも学校の歴史の授業もテレビの歴史番組も日本の近代史は割愛されもっぱら西洋史や国内の平安時代や戦国時代ばかりを取り扱っていた。後になってこっちの世界には図書館や本屋があって自由に本を読めることを知った。UGCA (U.S. Department of Governance and Certification Administration)とは米国統治証明省とか施政局とは謂われているアノ傀儡政府のことだ、米施(べーし)なんていうスラングで話されることが多い。日本人にとっては畏怖と嘲弄の的である今の日本国の統治体のことだ。これについて日本人は何も言えないし何も評価できない、下手なことを言うと検束隊がやってきて拘留され尋問を受ける恐れがあるからだ。さらに素行が悪かったり反米危険思想や精神疾患などを抱えていると判断されると国内のあちこちにある集住センターへ治療のため運ばれることになる。集住とは名ばかりの開戦時から続く日本人の強制収容所だ。 だから雑似にとって日本人が無事に連合国に降伏できたということが絵空事のように思われてならなかった。雑似はこのまえももりなに借りた地理の本で日本が北海道・沖縄を領有する姿というものを初めて見た。そもそもあの核攻撃も24か所連続ではなく2か所で終わったらしい、その後の世界で日本が降伏し新たに平和国家として生まれ変わったことはまことに信じられないことだった。 「本当にわけわからないこと言わないで頂戴、頭がおかしくなりそうよ」 雑似は数少ない話し相手であるももりなに何度もこの世界のことを聞いた。 米ソ紛争の絶えない旧北海道の留萌―釧路線の現状について聞こうとしたがももりなには全く理解できないらしい。このまま話を続けて北海道で実行されたビッグ・ツァーリ作戦(ソ連をけん制するため行われた米軍の函館、旭川、札幌、室蘭への同時核攻撃)の悲劇のことなどとても口に出せそうもなかった。 8/1のソビエトの北日本侵攻とその後の日本分断。京都と東京への同時波状核攻撃による日本政府と宮城の完全消滅。その後降伏を許されず絶滅戦へ突き進まされた日本。今も続く本州での米軍の日本軍掃討作戦、中国による四国領有と核実験場化宣言、イギリス・フランス軍の九州への進駐とそこへの国民政府とインドシナ政府からの難民受け入れ。雑似が生まれた時からこの日本の歴史はめちゃくちゃ陰惨で直視できるものではなかった。 「ごめん、でもわからないんだこの世界の深度や加減が・・。どこまで話したらいいか」 「いやよ戦争とか怖い話は。雑似くんの、その世界だってちゃんと日本人は存在してるし仲良く暮らしいるんでしょ?じゃあいいじゃない、何も変わらないじゃない」  悩み続ける雑似にももりなは優しく諭すように言った。その言葉に雑似の世界を嫌がるところはまるでなかった。しかし雑似は言った。 「でも同じではないんだよ。同じ日本人ではないんだ。僕らの世界の方は『好ましからざる日本人』なんてものがあってさ・・・」 「好ましからざる?」  「そう!UGCA(米国施政局)により日本人の欠陥である好戦的素質、狂信的復讐感情を生み出す土壌、その源泉である人種的特徴と定義されたやつさ」 「どんな?」 「もうすべてだよ、開戦の頃まで日本にあったすべて。たとえば昭和まであった日本古来の、将棋、武道、古典、街文化、小料理屋、料亭、遊郭、居酒屋、芝居小屋、落語、古典芸能、目につくすべてだよ。これらをUGCAは好ましく思わなかったので廃止を宣した。白米と魚中心の食事も禁じられ米国産小麦粉と米国牛肉を主食とせよと命令が出たんだよ。」 「そんな」 「認められているのはアメリカ流のプラグマティズム思想だけさ。学校では勉学スポーツに励み、異性の友達を持ち早く恋人になること。つまり正常に結婚することが奨励される、家という概念も希薄だから中学生のころから子供は独立し高校生になればみな親元を離れる。大事なのは親の言いつけ通り家にいることよりも、今週末に何人の友達をBBQパーティーに招待できるかどうかなんだよ、もちろん恋人同伴でね」 「あかるい世界じゃない、すばらしいわ」 「だけど無理してみんな日本人のアイデンティテイや文化を捨ててる。日本人の心は国土と同様に引き裂かれたままだ・・・アメリカ人のように毎週ダンスパーティをしてロカビリを聞いて大きな車に乗り毎日ピザを食べる。一見明るそうだろ?とんでもない!みんな無理してんだ、なんとかあのクソ詰まらないアメリカンフットボールだけはやらずに済だけどね、あれと金髪のプレイガールだけはどうも日本人の本質とは相容れなかったらしい、全く流行らなかったからね」  ももりなは雑似が説明した「好ましい日本人」像というものが割と直ぐに理解できたらしい。対米戦争という共通項を持つ世界だから、結果がどうあれ相通じるところも多少あるのかと雑似は思った。 「それで元の世界でも僕はどうも女友達を作るのが苦手でさ。恥ずかしい話、まだダンスパーティ―も未経験だしBBQに同伴できる恋人もいないんだ。それでももりなに声をかけて・・・そのきっかけを作ってくれたのがアキラだったってわけさ」 心なしかももりなの頬が赤く染まったのを雑似は見逃さなかった。ももりなはだまったまま何も言わない。 「はっきり言う、僕にはももりなしかいないんだ。だからもう少しこの世界の話を聞かせてもらえないかな」               7  「よう、センターフォアードくん!大食漢センパァイ!!」 放課後のグランドを歩いていると後ろから肩を叩き話しかける者がいた。雑似が振り替えるとアキラがいた。  「アキラ……。」 そこに立つのはアキラだった。雑似はアキラをじっと見続ける。  「なんだよびっくりしたなって顔して、俺の顔になんか付いてるか?」   「おまえ、アキラだよな」  「おい、なんだいなんだい。どうした兄弟。俺がそんなに珍しいか。」  「米施、八王子、検束隊・・・・・・」   その言葉を聞いて、アキラは あちゃーっと手で顔を覆った。  「どうしたどうした、大食い先輩。胃が壊れたついでに頭まで壊れちまったかい、うんうん。米施の迎えが来るってか、だいじょうぶだいじょうぶ、あれだけピザを食べてれば太っちょの米兵が見逃してくれるさ」  「米施のこと、わかるよな。わかるよな。」  何度もそう聞く雑似にアキラは怪訝な顔をする、本当にこいついかれちまったのかもって感じで。  「ああ、わかるさ。猿渡先生も、木下先輩も、みんな連れてかれちまったって噂だしな。米軍は怖いよ、やっぱり」 久しぶりにアキラを見て、雑似は話したいことがいっぱいあった。  「あ・ああ・・アキラ、あのな、俺な、アキラ」  「おう!ピザ屋じゃ、おつかれさーん。お前やっぱすげえな、シェイカーズの店員たちも目丸くしてたぜ、さすが、頼りになるボーイ!センパイさすがっス!」  アキラが俺の肩をバンバン叩く、声も調子もいつもの通りだ。まるでしばらくいなくなっていたようには思えない。雑似は、確かめようとしてた彼が不在の世界について言うのをためらう。どう説明すればいいのか。  「ああ、ピザもいいんだが、なあアキラあのさ・・」  「いやぁー俺もびっくりしたぜ、まさか全部平らげちまうとはな!熱血児、いよ、この快傑児! 俺がいつ助太刀しようかと見てたら全部一人で平らげちまうんだもん。いやー見直したぜ。あれから腹大丈夫だったかよ、ははは」  「俺、サッカー部のある世界と、ない世界を、行ったり来たりしてるんだよ」   アキラは大袈裟に驚いたふりをして言った。 「ええーーー!なっなんだってーーー!!お前とうとう分裂症へ仲間入りかよ」 「ああ、その通りさ、付け足すと、おまえがいる世界と、いない世界 を行ったり来たりしてる」  「ええと、お薬の時間ですね雑似さん。」  アキラは茶化して言うが、俺はまじめだった。  「だからホントさ、あっちは戦争が終わった世界で、日本は米国と平和条約を・・・」  その時、背後にかぐわかしい匂いがした。運動部の女子に流行の香水の匂いだ。  「おーい、ももりな。雑似を助けてやってくれよ!お前に惚れすぎて、頭がおかしくなりそうなんだと。俺にはもう手に負えん」  そういってアキラは、ちょうど後ろを通りかかった陸上部のももりなに話しかけた。 ショートパンツの部活動姿のももりなは、こっちを振り向くと、アキラと雑似を交互に見た。  「やだぁ、何言ってるのよ。あら、雑似くん、この前はどうも」  雑似を見るとももりなは愛想よく会釈をして弾ける声でそう言う、ニコニコしながらしばらく世間話をしていたがそのまま逃げるようにいってしまった。雑似に気があるのは明らかだ。アキラは、ニヤニヤしながら雑似に「このまま彼女のケツ追いかけろよ、燃えろ色男!」と嗾ける。 「ば、ばか言ってんなよ、練習、練習。もう大会が近いんじゃなかったのかよ。俺たちは今はサッカーボールのケツを追いかけなきゃならないんだぜ」 そう言って雑似がサッカーボールをアキラに投げつけるとアキラはふざけてエラシコの動作を見せつけてパスを返した、雑似は前に転がったボールに向かいそのままダッシュしてドリブルの体制に入った、すかさずそれをアキラが追いかける。 「俺たちが追いかけるのはサッカーボールだろ、ああん?アキラクン!」 「ああ雑似、今日も最高のアシストをお前に見せてやるよ」 雑似はあの世界の事などとすっかり忘れて久しぶりにアキラとの部活の練習を堪能した。彼のパスワークは健在で、雑似が何度も心地良いシュートを決めるとその度にアキラは大げさに喜んで雑似を鼓舞した。  「ナイスシュート!さすが俺らの期待の赤星、センターフォワードくん!」  練習の帰り、雑似は久しぶりにアキラと学校からの帰り路地を歩いてた。カドの瑞穂煙草店の前を通るとき雑似はあのおばあさんを思い出した。検束隊の進軍時に米兵がおばあさんを路上に引きずり出し何度も銃床で殴りつけたことがあった。理由は煙草の供出を拒んだとかそんな理由だった。2人の黒人兵が笑いながらなにか叫んでいた。Texas訛りのこいつらは『コロネット作戦、別名・地獄作戦』で相模湾一帯の民間人を殺して回ったあの悪名高き米軍第128空挺団特別教導隊「通称・デボネアエンジェル」の生き残りらしかった。ゲリラ鎮圧作戦の名のもと作戦地域の家々に押し入り女子供かまわず住民を殺しまくり火をつけて回った悪魔のエンジェルめ・・そのシンボルマークが軍服に見えるから多分そうだ。なんてことはない気晴らしに日本人を殺したかっただけなのだ。あまりの悪行にその後朝鮮戦役に送られ全滅したと聞いたがやつらのいる間すくらからぬ数の人間がやつらの餌食になった。それ以来みんな米兵への友好を示すため毎日彼らの目の前でピザを食べるようになったそしてコーラを片手にロカビリをラジオで流して歩いてさえいれば殺されることなかったのだ。  ちょうどその時目の前の食料品スーパーの前に黒塗りの車が横付けした。サイレンはならないが車内に青色灯が点滅する。 「検束隊だ・・」 「ああ、お前も連れていかれないようにな、連行されたら二度と戻ってこれないぜ」 「久しぶりに見るぜ緊張するな、おいピザはないからチューインガムでもかんでろ、あとコーラは、コーラはと・・・」  アキラは学生カバンからコーラを取り出すと俺に渡した。 「い、いいのか、おまえの分は」 「いーから、いーから」 王冠を抜くと炭酸が溢れ生暖かいコーラの風味が口中に広がる。 「ジョリーグッドな味だぜ」 ふざけて雑似は言う。アキラはシーっと雑似に言った。 店から数人の拘束された店員が検束隊と出てきた。検束隊は段ボールを抱えている。 「あれはたぶん・・・米だな・・・・」 アキラは言った。 「米か・・・・あんなにアメリカに食うなって言われてるのに、やっぱり買う奴はいるんだな・・・・」 「こりゃ、茅野送りだな、かわいそうに」 八王子強制キャンプでは手に余る重度の敵性国民は信州の茅野中央キャンプに送られていた。ここに送られると帰れることはほぼなかった。米の密売は麻薬や酒よりも罪が重く死刑か無期禁固と決められていた。米軍が日本兵や日本人ゲリラの粘り強さは米のせいだと深謀していたのはあのいい加減な知日学者グルーのせいだ、あいつが戦前から嘘ばかりの日本文化を政府に開陳した為米軍情報部はそれを鵜呑みにして統治政策に取り入れたのだ。そのおかげで今や海苔や漬物、味噌、醤油さえも日本からなくなりつつある。いまや魚を刺身にして生で食べることも七輪で焼くこともできない、蕎麦や饂飩を茹でることすら御法度だった、こういう特殊な食事が米食と共に日本人の精神を歪め凶暴性を強めるからという理由で米軍に禁止されたからだ。だから日本人が今食べられるものは米国から輸入されたもの、ポークのランチョンミートかコンビーフの缶くらいだった。 「そういえばよう」 なんとか検束隊をやり過ごし歩いていると、アキラが言った。 「俺、シェイクシェイクのバイトもう辞めたんだ。先輩社員がある日、とんでもないピザを持ち込んじゃってさ」 「お前、あのピザ屋辞めたのかよ、早すぎだろ」 「いやー、これ聞けば納得するし愕然とするぜ、で、その先輩社員がさ試作品ピザを作ってきたわけよ、で、よくよく見ると米が載ってるピザなのさ」 「は?そんなことあるわけないだろ」 「そう思うだろ、でも何を考えたんだか、ナシゴレン風ピザなんていうのを開発しちゃってさ・・・生地の上にタイ料理のナシゴレンをそのままトッピング・・・隠れて米食うには絶好だって、さ。」 「それで、どうなったんだ・・・」 「ああ結局、その社員はある日行方不明になった。タイ自由国から米軍に通報があったらしい。多分、米施の手で茅野送りさ。それで怖くなってピザ屋のバイトやめたんだよ」 「信じられねえ・・・・」 雑似は驚愕した。 「こわいぜ。米だけじゃない、海苔、味噌、清酒・・・そう言った禁制品の秘密工場が九州にあって、欧州が米軍を牽制するためにひそかに本州に密輸してるって話だぜ」 「ありえねー」 「あと今は、海苔佃煮ってのが流行らしい。これはヤバい麻薬食で、白米と共に食すると止まらなくなるそうだ。何杯も米をを食うことになるらしいぜ。先月、中国空軍が淡路島ルートで関西に盛大にばらまいたって話だ。」 「白米が止まらくなるのか、恐ろしいなぁ」 こうして二人は未だ食したことのない白米の話で盛り上がった。雑似は昔、友達の家でこっそり戦前の映画フィルムを見たことがあった。その中で、昔の日本人が食卓を囲んで食べているのが茶碗によそった白米と焼き魚だった。梅と昆布というものも食べてたような気がする。その中でも特に異彩を放っていたのが佃煮だった。それはペースト菓子のように風味能く塩気と滋養がある日本人にぴったりの食事らしかった。その映画フィルムを見た日は家に帰った後も雑似は興奮しすぎて朝まで寝られなかった。 「白米がとまらないんだぜ」 「白米か、一度食ってみたいな」 こんな話をして雑似はアキラと別れた。結局、アキラのいない世界の話はまじめに話すことが出来なかった。
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