清廉潔白な乙女

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「七夕の都市伝説、知ってますか?」  小さい目のせいで似合ってない伊達メガネをくいっと上げて訊ねてくる、前の席の奴。俺は「何それ、知らない」とだけ答えて薄い卵焼きを齧った。 「ふふ、僕も最近、聞いたのですがね。どうやら、御笠山の奥にある、白い鳥居の前で〝清廉潔白〟と三つ唱えると、過去に犯した罪をなんでも消してくれるらしいんですよ」  思わず箸を止め、そいつの顔を見る。名前、なんだっけ。このクラスで俺の次に成績が良い奴ってのは知ってるんだけど。まぁ、いいか。 「過去に犯した罪をなんでも消してくれる?」 「お、興味が湧いてきました?」  急に顔が近づいてくる。乾燥した口元を上げ、目を輝かせているのに苛立った。中学の時には、こんな風な奴と喋ることもなかったんだけどな。  けど、妙に安心する。  俺は本来、こっち側の人間だからだ。
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